1月14日 に掲載された記事

 阪神・淡路大震災の被災者向けに神戸市が民間などから借り上げた復興住宅が2015~23年度に返還期限を迎える問題で、震災前から同じ場所に暮らしている住民が不安を募らせている。「戻り入居」として優先的に借り上げ住宅に入ることができたものの、転居を迫られる事態に。住民らは「震災を挟んで続いている地域コミュニティーが壊れてしまう」と訴えており、「転居拒否」を決議する住宅もある。

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▲同じ借り上げ復興住宅(後方)に暮らす友光さん(左)と新井さん。震災直後は、一緒にこの公園に避難した=神戸市長田区東尻池町


 阪神・淡路大震災の被災者向けに神戸市が民間などから借り上げた復興住宅が2015~23年度に返還期限を迎える問題で、震災前から同じ場所に暮らしている住民が不安を募らせている。「戻り入居」として優先的に借り上げ住宅に入ることができたものの、転居を迫られる事態に。住民らは「震災を挟んで続いている地域コミュニティーが壊れてしまう」と訴えており、「転居拒否」を決議する住宅もある。(岸本達也)


 「この場所に40年住み続け、震災のときも地域で助け合った。ほかには移れない」。神戸市長田区東尻池町の借り上げ復興住宅に暮らす友光登美子さん(68)は嘆く。

 震災前に住んでいた長屋は全壊したが、家主が同じ場所に5階建てのマンションを再建。市が20年契約で借り上げ、友光さんら同じ長屋にいた5世帯が避難先などから戻ってきた。

 だが、家主への返還期限は5年後。今は市の補助で家賃が低く抑えられてるが、返還後は入居者負担が増えるため、友光さんは「私も含め、多くの住民が住めなくなる」と訴える。

 もともと住民同士の結びつきが強い地域で、震災直後は長屋前の公園に集まり、食料を分け合った。友光さんも長屋の布団をあるだけ取り出し、公園に運んだ。

 同じマンションの新井清子さん(62)は長屋時代からの友人で、毎夏の地蔵盆では準備に精を出す。友光さんは「同じ住宅には90代の高齢者もおり、声を掛け合って暮らしている。頼むからここにおらして」と懇願する。

 神戸市の借り上げ復興住宅はピーク時107団地3805戸あり、うち民間からの借り上げは76団地1527戸。友光さんのように、震災前、同じ家主の建物に住んでいた住民は「戻り入居」として入居が優先された。市によると、当初は110~120戸あったとみられるが、「ほかの借り上げ住宅と差が出るのは不公平になる」として、予定通り返還を進める方針だ。

 一方、市が2007年に行った民間家主へのアンケートでは約7割が借り上げ期間の延長を要望。昨年7月には、延長を求める家主たちの協議会も発足した。

 「戻り入居」が多い同市兵庫区内の二つの借り上げ住宅では昨年、全世帯が転居しないことを確認するなど、住民の動きも活発化している。

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