教員によるNIE実践の記事一覧

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興味持ち、調べるきっかけに 「18歳になったら必ず行く」

 10月27日に投開票された衆院選に合わせ、西宮市立浜脇中学校(同市宮前町3)の3年生が兵庫7区(西宮市南部、芦屋市)の模擬投票を行った。生徒たちは1票の重みを実感し、「私たちの意見を届けるためにも、若者が積極的に参加すべき」とかみしめていた。(三好正文、土井秀人)

 同校と兵庫県NIE推進協議会が企画した。日本では2016年参院選から18 歳選挙権が適用されたが、10代の投票率の低さが課題となっている。

 国政選挙に合わせた、本物に近い「学校選挙」はスウェーデンなどで行われている。同校は日本新聞協会のNIE実践指定校。新聞の選挙報道に触れ、18歳になる前に主権者意識を高めてもらおうと模擬投票を行った。

 衆院選は10月15日に公示され、兵庫7区は5人が立候補。前回と同じ自民党、立憲民主党、日本維新の会の構図に共産党と参政党が加わった。

 生徒たちはまず、同協議会事務局による主権者教育の授業で、「投票することが、政治に自らの意見を反映させる近道」と学んだ。さらに、選挙シミュレーションゲームで1票の価値を体感したり、どの政治課題に関心があるかを話し合ったりした。

 事務局では、各新聞社の選挙報道を読むように勧め、自分の考えと近い政党が分かる、共同通信社などのサイト「ボートマッチ」の利用も呼びかけた。

 3年生は選挙期間中、同校が製作した投票箱に「1票」を投じた。11月1日に開票され、283人のうち投票したのは240人で、投票率は84・81%だった。実際の7区は57・10%だった。全国は53・85%と戦後3番目に低く、10代はさらに低い43・06%(速報値)にとどまった。

 各クラスでは結果を受けて授業が行われた。実際の選挙では自民前職が当選し、維新前職、立民新人が比例復活したが、模擬投票では維新▽自民▽立民▽共産▽参政―の順だった。生徒たちは「教育無償化」「裏金問題」「世界平和」などを基準に選んだといい、「授業以外で自分で調べるきっかけになった」「家で話すことで家族にも興味を持ってもらえた」と振り返っていた。

 3年の宮垣璃子さん(14)は「選挙に興味はなかったけど、調べてみると面白い。18歳になったら未来を託せる候補者を見つけ、必ず投票に行く」。担当した野上耕佑教諭(29)は「生徒たちは自分の1票をどこに投じるのか真剣に考え、実際の結果と比較して考察することもできた。今後につなげ、選挙で自分の意思を反映してほしい」と話していた。=11月8日付神戸新聞朝刊阪神版

[写真㊤]衆院選の模擬投票結果を受けて感想を述べ合う生徒ら=いずれも浜脇中学校[写真㊦]主権者教育の出前授業で関心のある政治課題について意見交換する生徒たち

※「わたしの感想NIE」に生徒のみなさんの感想を掲載しています。

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 新聞紙を使った運動会「こうなんシンブリンピック」が、東灘区住吉本町1の甲南小学校・幼稚園であり、小学3年生56人と年長の園児28人の計84人が参加した。新聞紙を胸に当てて、落とさないように走るリレーや、新聞紙で作ったポンポンを腰に付けて、お互いに取り合うゲームなどを楽しんだ。

 甲南小学校は日本新聞協会のNIE実践校。10月22日に「新聞をまだ読めなくても、折ったり破ったり、新聞を使うのもNIE活動」と、幼稚園との合同運動会を企画した。

 児童らが新聞紙で作った玉で玉入れをしたり、神戸新聞社員が災害時に役立つ新聞紙スリッパの作り方を教えたりした。

 3年生の幸田蓮也さん(9)は「玉入れが楽しかった。新聞は、図書館で読むうちに好きになった」、園児の久保咲奈さん(6)は「ポンポンを取り合うのが面白かった」と話した。(三好正文)=11月7日付神戸新聞朝刊神戸版

[写真説明]新聞で作ったボールで玉入れをする子どもたち=甲南小

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 近藤紘子(こうこ)さん(79)=三木市=は広島原爆の、著名な被爆者の一人である。愛徳学園中学校(神戸市垂水区)の3年生は10月、広島に修学旅行に行き、帰校後、NIE活動の一環として、「ヒロシマ」をテーマにした新聞製作や、同学園の児童に「平和」について伝える授業を行う。修学旅行前の学習として9月25日、生徒たちは近藤さんから話を聞いた。生徒たちは何を感じ、何を思ったのだろう―。同校の米田俊彦教諭にご寄稿いただいた。

 「1945年8月6日、その日の朝は本当にきれいな青空だった」という言葉で講話が始まりました。生後8カ月でおかあさまの腕の中で被爆され、その後を生きてこられた体験の講話です。 

本校の中学3年生は10月16~19日、3泊4日の日程で広島、中国地方へ修学旅行にまいります。「平和」「ともに生きる」とはどういうことかについて深く学びます。

 近藤紘子さんは、被爆直後の様子や、その後成長していく中で被爆した方と出会い、交流されたこと、ABCC(原爆傷害調査委員会)で健康調査を受けたときのつらい体験など、原爆に対する思いとその思いの変化についてお話しくださいました。

 近藤さんは、原爆を落とした行為と落とした人に対する強い怒りとともに生きてこられました。しかし、原爆を投下したエノラ・ゲイ号の副操縦士とアメリカで会い、その方の「自分のしたことに対する後悔」の言葉と涙を目にし、手を触れたそのときに、「憎むべきは戦争です」とお気づきになりました。この近藤さんの言葉は、私の心にも深く刻まれ、これからも問い、考えていかなければならないことだと強く思いました。

 また、被爆者のため力を尽くされたお父さまのこと、原爆投下直後のルポルタージュ「ヒロシマ」(ジョン・ハーシー著、石川欽一・谷本清・明日川融訳)をめぐるお話や、2016年のオバマ米大統領(当時)の広島訪問のことなど、現代に至るまでのエピソードを交え伺いました。幼少期のお召しものなど実物も紹介されました。

 講話の後、「平和な地球にするにはどうすればいいと思いますか」という近藤さんの問いに対し、生徒一人ひとりが話した言葉に「希望」を強く感じました。

(以下、生徒の言葉です)
「自分のことだけじゃなくて、人のことも考えて過ごしていったら戦争はなくなるのではないか」
「今のことや未来のことだけじゃなくて、過去のこともしっかり見ていくことが大切だ」
「これまでに戦争で亡くなった方々のことや傷ついた人々のことを忘れずに過ごしていくこと」
「過去の戦争のことを一人ひとりが忘れないこと」
「他人の気持ちを思いやって過ごしていくことが平和につながる」
「一人ひとりが平和について考えて、生きていくことが大切」

 そして、「たくさんの人に会い、意見を聞いて、知識を得て自分より下の世代に受け継いでもらう」など、生徒たちははっきりと、あるいは自分の中から絞り出すように、一言一言、ゆっくりと思いのたけを言葉にしていました。

 近藤さんからも「自分が言いたいことを言うことが大切で、自分の意見がしっかり言えていましたね。地球はとってもきれいで美しい。これを壊われないようにし、真の平和の実現を皆さんにゆだねていきたいと思います。これを受け継いでいってほしい」というお言葉をいただき、生徒の思いと近藤さんの思いが交わりつながった、生涯心に残る講話になりました。

 今年のノーベル平和賞は「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」の受賞が決まりました。戦後約80年間、世界の戦争で核は使用されていません。これは苦しみを受け、繰り返してはいけないというメッセージを訴え続けてこられた多くの方の力だと思います。

 そんな今、近藤さんのご体験と思いを受け継ぎ、生徒の言葉を実践していくことが大切なのだと改めて思いました。 

 生徒たちの帰校後も含めた取り組みは、来年夏の「NIE全国大会神戸大会」で実践発表する予定です。

米田 俊彦(愛徳学園中高等学校教諭、日本新聞協会NIEアドバイザー)(10月16日)

[写真説明]平和への思いを語る近藤紘子さん=愛徳学園中学校

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 広島の原爆について学ぶ授業が9月25日、神戸市垂水区歌敷山3の愛徳学園中学校であった。生後8カ月の時に被爆した近藤紘子さん(79)=三木市=が、自身の体験、平和を訴えてきた戦後の歩みについて語った。

 同学園は平和教育、新聞を使った授業「NIE」に力を入れており、3年生は10月の修学旅行で広島を訪問する。来年、神戸市で開かれるNIE全国大会で、原爆と広島に関する学習成果について発表する予定。

 近藤さんは原爆が投下された時、爆心地から1・1キロ地点にある教会施設にいて一命を取り留めた。やけどで傷ついた被爆者を身近に見て育ったこともあり、「米軍は鬼」と思っていた。

 だが戦後、米爆撃機B29の搭乗員が涙を流して悔やむ姿に接した近藤さん。愛徳学園の生徒たちに「(米兵の)彼らも優しい人間の心を持っていた。憎むべきは戦争だ」と訴えた。

 授業を受けた生徒は「相手を恨むのではなく、理解しあうことが平和につながると思った」と話した。(津谷治英)=30日付神戸新聞朝刊神戸版

[写真説明]生後8カ月の時に広島で被爆した体験を愛徳学園中学で話す近藤紘子さん=神戸市垂水区歌敷山3

※「わたしの感想NIE」に生徒のみなさんの感想を掲載しています。同校の米田俊彦教諭の寄稿はこちら

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 新聞を教育に活用する「NIE」の研究授業が9月27日、明石市立大久保小学校で行われた。児童が読売新聞に連載されている「コボちゃん」などの4コマ漫画を使って、話題を展開する起承転結の仕組みを学んだ。

 4年生31人を日本新聞協会NIEアドバイザーの若生佳久教諭(62)が指導した。子供たちはタブレット端末で、1コマずつバラバラにしたコボちゃんなどの4コマ作品を、セリフ、話の流れ、絵をヒントに並べ替えた。

 3~4人の班で意見交換した後、代表者が順序についての意見を発表。他班の子らが「話が急に変わっている」「別のセリフなら話が通る」などと指摘した。

 参加した田中梓さん(9)は「みんなで意見を出し合って楽しかった」と笑顔だった。

 授業については来年夏、神戸市で開催される「NIE全国大会神戸大会」で発表する予定。若生教諭は「新聞の4コマ漫画は日常生活を取り上げているので子供が取っつきやすく、季節感もあるので教材に適している」と話していた。=28日付読売新聞朝刊神戸明石、阪神、三田、淡路、播磨姫路、但馬、丹波の各版
  
[写真説明]「コボちゃん」の4コマの順序や起承転結を考える児童(明石市で)

                      ◆

4こま漫画で「起承転結」学ぶ  明石市立大久保小・若生教諭が授業  4年生31人が参加

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 バラバラにした新聞4こま漫画を正しい順序に並べ直すNIE授業が9月27日、大久保小学校(明石市大久保町大久保町)であり、4年生31人が参加した。日本新聞協会NIEアドバイザーを務める、同校の若生佳久教諭(62)=写真㊨=の指導で、児童たちが4こま漫画の「起承転結」について学んだ。

 この取り組みは長年、NIE活動を続けている若生教諭が考案した。

 2409274komanarabenaoshi.jpgこの日は、本紙朝刊7月21日付の「ねえ、ぴよちゃん」など二つを教材にした。「ねえ、ぴよちゃん」は、ぴよちゃんがパフ(ポンポン)でメークするお母さんをまねて、ネコ(又吉)のしっぽで自分の顔をポンポンとするという話。児童たちは登場人物のセリフや表情をもとに4こまを並べ直した。

 続いて、並べた順番とその理由を班ごとに発表。授業を受けた吉田芽生さん(9)は「正しい順に並べることができてうれしかった」と話した。ぴよちゃんのセリフを少し変えれば、正解と違う順でも意味が通る―との発表もあった。

 新聞4こま漫画は1923年10月から東京朝日新聞で連載された「正チャンの冒険」が最初といわれる。事件事故などのニュースも多い紙面の「一服の清涼剤」となっている。

 若生教諭は「新聞の4こま漫画は、生活に密着した話題や風物詩が多く扱われ、児童がとっつきやすい。日頃から新聞を開く機会になれば」と話す。この取り組みは来年夏の「第30回NIE全国大会神戸大会」で、若生教諭が発表する予定だ。(三好正文)=10月2日付神戸新聞朝刊明石版

[写真㊤]4こまマンガを並べ直す児童=いずれも大久保小学校[写真㊦]新聞の4こま漫画について学ぶ子どもたち

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240917igawadaiyasaiinihonngoihara.jpg 「やさしい日本語」とは、外国人や小さな子どもも理解しやすい日本語のことである。よく新聞は「中学生でも理解できるよう書いてある」といわれるが、やや難解との印象を受ける。兵庫県を中心とする教員や多文化共生サポーターの有志で8月結成した「新聞をつかった『やさしい日本語』研究会」による初の公開授業が9月17日、私が勤める県立伊川谷高校(神戸市西区)で行われた。 県内外の教員や日本NIE学会のメンバーら約20人が参加した。特に外国籍の生徒が多い夜間中学の先生に数多く参加いただいた。

 本校の「やさしい日本語」の取り組みは4年前にさかのぼる。コミュニケーション類型の1年生を対象に毎年度、「やさしい日本語」を用いた新聞記事の書き換え講座を実施、生徒が多文化共生を考えるNIE活動を実践してきた。

 公開授業は2024年度1回目の書き換え講座で、「やさしい日本語」のコツを多くの方に知ってもらおう--と企画。入門・やさしい日本語認定講師の塩川雅美先生(龍谷大学グローバル教育推進アドバイザー)に 、1年生約30人に指導していただいた。

 公開授業の冒頭、同研究会世話人である私(福田)が「やさしい日本語」について説明。今後、日本では「日本語を母語としない人」とのコミュニケーションがますます重要になること、新聞は一覧性や網羅性など優れた面があり、メディアリテラシーの獲得に有効だが、記事を書き換えることでより理解が深まり、他者に伝わりやすくなることなどを話した。

 塩川先生の授業では、「ワセダ式ハサミの法則」にもとづいた文章の書き換えについて説明があった。ワセダ式とは、わけて言う▽せいり(整理)して言う▽だいたん(大胆)に言う。ハサミの法則とは、はっきり言う▽さいご(最後)まで言う▽みじかく(短く)言う―という意味。生徒たちは書き換えのワークにも取り組み、興味が尽きない様子だった。

 例えば、コンビニの店員から「レジ袋は要りますか」と尋ねられ、「大丈夫です」と答える光景をしばしば目にするが、「要りません」の方が断然伝わりやすい。

 生徒たちは、今後3回の授業で、生徒自身が選んだ新聞記事を「やさしい日本語」を用いてA5サイズのはがき新聞にまとめ、伝えたい内容の表現法を考える▽必要な情報を取捨選択する▽読み手を意識した見出しやレイアウトを考えるーなどを学ぶ。できあがったはがき新聞は生徒同士で評価し合い、優秀作の発表につなげる。

 同研究会では今後、授業公開やオンラインを活用した勉強会を年に数回予定している。

 本校は日本新聞協会のNIE実践校に指定いただいている。これからのNIE実践では「教師が児童生徒に教材として新聞を提供するNIE」を一歩進め、「児童生徒が自ら興味関心を持った記事を活用するNIE」を 展開したい。そのため「やさしい日本語」の研究を深化させたいと考えている。

 現在、兵庫の夜間中学では日本語を母語としない生徒への教育活動が行われているが、「やさしい日本語」の取り組みは、多文化共生の観点からどの学校の児童生徒にも身に付けてほしいスキルだと感じている。

福田 浩三(県立伊川谷高校主幹教諭、日本新聞協会NIEアドバイザー)(10月3日)

[写真説明]塩川先生から「やさしい日本語」の話を聞く生徒たち=9月17日、県立伊川谷高校

※伊川谷高校による「新聞を使ったやさしい日本語」の取り組みは、来年夏の「第30回NIE全国大会神戸大会」で実践発表される予定です。

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 外国人や小さな子どもも理解しやすい「やさしい日本語」をテーマにした公開授業が9月17日、伊川谷高校(神戸市西区伊川谷町長坂)で開かれた。龍谷大グローバル教育推進アドバイザーの塩川雅美さんが講師を務め、長い文章を短く分けるといった表現方法を解説した。

 県内外の教員らで今年8月に結成した「新聞を使った『やさしい日本語』研究会」の主催。同校では、研究会世話人でもある福田浩三主幹教諭が数年前から、日本語を母語としない人にもニュースの内容が理解できるように新聞記事を書き換える授業を進めている。

 公開授業は研究会が取り組む企画の第一弾で、1年生約30人が授業を受け、県内各地の教員ら約20人が参観した。

  塩川さんは、分かりやすい日本語を書くための工夫として、長い文章を短く分けることのほか、必要な情報だけ伝える▽熟語や複合語はできるだけ使わない▽敬語、擬音語も使わない―といった方法を説明。「やさしい日本語を使えば、外国人や子どもとのやりとりだけでなく、AI(人工知能)ともスムーズにやりとりできる」と解説した。

 生徒の三膳麗蘭(みよし・れいら)さん(16)は「何げなく使っているつもりの日本語でも難しく感じる人がいることが分かった。新聞を書き換えるときはできるだけ易しく表現したい」と話していた。

[写真説明] 「やさしい日本語」をテーマに語る塩川雅美さん=伊川谷高校

参加者の感想

 塩川先生の講演で紹介された例文から―。コンビニ店員から「レジ袋は要りますか」と尋ねられ、「大丈夫です」、重い袋を持っている人に「持ってあげます」と声を掛けると、「どうも」―。日本語は難しい。やさしい日本語だと、前者は「要りません」、後者は「ありがとうございます」「お願いします」となる。「やさしい―」とひらがななのは「易しい」「優しい」の両方の意味を持つからだろう。来年夏のNIE全国大会神戸大会では、伊川谷高・福田先生による「新聞を使ったやさしい日本語」の実践発表も行われる。多様な社会実現に向けた大きな取り組みになる。(兵庫県NIE推進協議会事務局長 三好正文)  

  

※2月2日、須磨友が丘高校の生徒たちが、近くの横尾小学校6年制を対象に行った「震災授業」。2年目になる「小高連携授業」です。両校の先生にねらいや感想をご寄稿いただきました。

須磨友が丘高校 岩本和也教諭

 29年前、地元神戸で発生した阪神・淡路大震災と、今年1月1日に発生した能登半島地震に関する新聞記事を利用して授業を行った。それぞれの地震について、特に避難所について報道された記事から「避難所で困っていること」を読み取り、そこから見える共通点や、どのような支援が必要かを話し合い、さらには「自分たちがどのような備えをしておくべきか」を考えることをねらいとした。

 小学生のグループに高校生がファシリテーター役として入ることで、児童と生徒が意見交流し、学びを深め合うように授業計画を立てた。

 小学生はこの日の授業で、新聞記事をよく読み、問いの答えを読み取ろうとしていた。苦戦している児童もいたが、高校生らのサポートを受けながら、真剣に取り組もうとする姿が見られた。

 その結果、読み取った内容をもとに児童同士、あるいは児童と生徒の間で話し合い、意見交換することができた。複数の新聞を比較することで、時代による変化や、時代を経ても変わらない課題について考えることもできた。高校生にとっては「小学生に教える」という体験を通して、防災に関する意識がより高まる機会となった。

                                           ◆

横尾小学校 吉川拓郎教諭

 2月2日、神戸市立横尾小学校6年生と県立須磨友が丘高校の生徒会による連携授業が行われた。教育に新聞を取り入れる「NIEE」の一環として、2022年度から取り組んでおり、今回が第2弾である。普段、高校生と小学生との接点は少なく、児童たちにとっては非常に新鮮である。前回と同様、「震災」をテーマに授業をしていただいた。

 前回はグループごとに違うテーマについて話し合った。ラジオ放送や避難所の様子など、幅広い話題に触れられるという良さはあったのだが、全体でのふりかえりの際に話題がかみ合わない、さらに、授業後に得られる学びに差があることが課題として残った。その反省から今回は一つの話題に絞ったグループワークをご用意していただいた。

 まず、代表の生徒が実際に東日本大震災の被災地に行って得た経験を話してくれた。その中で、「被災者の生の声から感じたこと」が印象的だった。津波で娘を亡くした母親が「仙台は悲しい場所ではなく、亡くなった娘との思い出が詰まったすてきな場所」と語ったという。一般的に被災地に向けては「かわいそう」という視線を向けがちだが、被災者にとってはその視線がマイナスに働いてしまう、という気づきだった。

 その後、6グループに分かれてワークを行った。各班に高校生が1人ずつ付き、ファシリテーター役を担った。資料として阪神・淡路大震災と能登半島地震の、避難所に関する新聞記事を渡された。阪神・淡路の記事は、ある避難所の一日で起きていることを時系列に紹介し、避難者の思いや混乱が伝わってきた。能登の記事は、東日本大震災の後に、備蓄品の見直しをしたのにも関わらず、全く足りなかったという記事だった。

 いつのときも必要とするものが同じであること、過去に経験した震災の教訓が生かされていないのはもったいないこと―。子どもたちはそれらの記事から感じたことや共通することを出し合った。

 次に「もし、自分たちが避難するならどんなものが必要となるか」を話し合った。まずは暑さや寒さをしのぐもの、食料、トイレなどが挙がった。その後、サッカーボールなど、長期間の穂難所暮らしを見据えて欲しくなる娯楽を考えた児童もいた。

 最後に、代表のグループが話し合った内容を発表した。他の児童も同じ内容を話し合っていたので、うなずきながら話を聞いていた児童が多くみられた。

 授業後の子どもたちの感想を見ていると、授業内容もさることながら、高校生が前で上手に話す姿に感銘を受けている児童が多くみられた。児童と教師のちょうど間の存在として、憧れを抱きやすいように感じた。児童たちにとって得るものの多い時間となったと思う。

240202sumatomogaokakouyokoosyouyomiuri.JPG神戸・須磨友が丘高校×横尾小学校

 高校生が小学生に防災について伝える授業が2月2日、神戸市須磨区の市立横尾小学校であり、県立須磨友が丘高校の生徒16人が講師役を務め、同小の6年生43人と一緒に災害時の備えについて考えた。

 両校は日本新聞協会のNIE実践指定校。児童らは班に分かれ、阪神大震災と能登半島地震の避難所の状況を伝える新聞記事を教材に、避難した時を想定して話し合った。東日本大震災の被災地で学んだ高校生らの話を聞きながら、「おいしい食べ物が必要」「プライバシーを守ってほしい」など気づいた点を付箋に書き、模造紙に貼り付けた。

 山口陽菜さん(17)は「新聞は多くの情報がある。ゆっくり読んで自分の力で必要なものを見つけてほしい」とアドバイスし、授業を受けた菅内恒晴君(12)は「家族と地震のことを話し合いたい」と感想を述べた。=3日付読売新聞朝刊神戸・明石版 

[写真説明]災害時の備えを児童に語りかける生徒(神戸市須磨区で)

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 阪神・淡路大震災と能登半島地震を報じた新聞記事を教材に、高校生が小学生に防災の大切さを伝える授業が、横尾小学校(神戸市須磨区横尾5)であった。児童らは記事を読み、避難所の生活について考えた。

 須磨友が丘高校(同市須磨区友が丘1)の生徒会役員16人が横尾小6年の43人に教えた。両校ともに日本新聞協会のNIE実践指定校。

 高校生は、29年前の神戸と今年の能登半島の避難所生活を報じた新聞記事を児童に配布し、「二つの避難所で同じところは」「地震発生時の心配事を減らすには今何ができるか」などの問いを設定。児童は記事を読み比べ、「感染症がはやっているところが同じ」「水や食料、服の用意をしておくのが大事」と付箋に書き、模造紙に貼った。

 横尾小6年の菅内恒晴さん(12)は「新聞を読むと被災地の状況が分かりやすい。自分の家の準備は大丈夫かなと考え直した」。昨年夏に東日本大震災の被災地・宮城県を訪ね、学んだことを伝えた須磨友が丘高2年の山口陽菜さん(17)は「小学生は固定観念にとらわれず、高校生と違った発想があって学びになった」と話した。(劉 楓音)=2月8日付神戸新聞朝刊神戸版

[写真説明]高校生とともに、避難所に関する二つの記事を読み比べる児童=神戸市須磨区横尾5

 生徒の感想 須磨友が丘高2年、則本若和葉さん(17)「小学生が主体となる授業を心がけた。防災バッグを備えるなど、みんな次々と意見発表してくれて意義ある時間となった」

※授業を担当された先生のうち、須磨友が丘高・岩本和也教諭と横尾小・吉川拓郎教諭の寄稿(ねらいや感想)をこちら 生徒と児童のみなさんの感想をこちらに掲載しています。

 日本新聞協会NIEサイトにもリポートが掲載されています。リポートはこちら

 

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外国人など配慮 やさしい日本語使う

 教育に新聞を活用するNIE(教育に新聞を)の実践や、成果を話し合う日本NIE学会第20回大会が12月2日、福岡県宗像市の福岡教育大学教育総合研究所で行われた。兵庫県立伊川谷高校の福田浩三教諭は、外国人や高齢者、障害者にも配慮した〝やさしい日本語〟で「はがき新聞」を作ることで、多文化共生への懸け橋としての日本語理解を深める授業を紹介した。

 大会は過去3年間、新型コロナウイルス感染対策でオンライン開催が続いたが、今回は対面とオンラインを併用。教員らによる自由研究発表と、現役高校生らによる「NIE生徒研究発表会」、シンポジウムの3部構成で行われた。

 数学科教員の福田教諭は専門にこだわらず、同校のコミュニケーション類型に所属する1年生29人に「やさしい日本語新聞書き換え講座」を実施した。

 前段階として校内に各紙を掲示し、週1回、福田教諭手作りの「学年通信」を配布。B4判両面カラーで、生徒紹介や写真、イラストなどを使って身近なニュースを盛り込み、新聞に親しめる工夫を重ねた。

 さらに全4回の新聞の読み方講座を実施したほか、気になった記事を、A5判の「はがき新聞」に、外国人や高齢者、障害者にも配慮した〝やさしい日本語〟で書き換える授業を行った。「限られたサイズの中で、読み手の立場に立ち、より分かりやすく内容が伝わるよう、まとめ直すことが、在日外国人との共生を考えるきっかけになり、母語である日本語の見つめ直しにつながる」と福田教諭。

 阪神大震災を経験した土地だけに災害時は、拙い外国語より、素早く「やさしい日本語」で情報発信した方が、有益なコミュニケーションができるという統計結果も踏まえ、多文化共生社会をはがき新聞から考えてほしいとの願いを込めた。

 生徒作成のはがき新聞では、日本の男女格差や、強制不妊などが取り扱われ、相互評価も行った。生徒からは「やさしい日本語は、外国人だけでなく日本の子供にも伝わりやすくてよい」「全く知らないニュースも、分かりやすい」などの感想が出されたという。

 生徒の中から希望者4人が、在籍生徒の8割が外国籍の夜間中学、神戸市立丸山中学西野分校の生徒と交流も行った。実際に「やさしい日本語」の力を実感し、何を伝えたいか明確にする必要性などを学び取った。

 福田教諭は「生徒には校内行事もはがき新聞で定期的に感想をまとめさせて、教室に掲示している。こうした実践を続けると、国語力が驚くほどアップする」と評価している。(飯塚友子)=12月16日付産経新聞朝刊「増刊 学ぼう産経新聞」

[写真㊤]日本NIE学会で、はがき新聞を活用したNIE活動について発表を行う福田浩三教諭=12月2日、福岡県宗像市の福岡教育大学[写真㊦]福田浩三教諭手作りの学年通信

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 姫路市立大塩小学校では10月10日、4年生約60人が「西の比叡山」とも呼ばれる名刹・書写山円教寺(姫路市書写)で林間学校を行い、下山後、体験を新聞にまとめました。

 本校は2022~23年度、日本新聞協会のNIE実践校に指定されています。それが縁となって、昨年に続き、林間学校の前と後のそれぞれに、兵庫県NIE推進協議会から出前授業を受けました。児童たちは、円教寺の思い出を新聞にまとめるポイントを教えてもらいました。

 事前の授業は9月20日に行われ、神戸新聞記者でもある同協議会の事務局長から「自分だけが見つけた景色や感動を記事にしよう」と言われ、児童たちは、楽しみなこととして「山上から姫路の景色を眺めること」「お寺を見て回ること」「お弁当の時間」「ロープウエーに乗ること」などと口々に答えていました。

 円教寺は天台宗の別格本山で、俳優・トム・クルーズ氏や渡辺謙氏らが出演した映画「ラストサムライ」などのロケ地としても知られます。林間学校で児童たちは、摩尼殿(まにでん)や食堂(じきどう)、開山堂など諸堂を巡るウオークラリーに挑戦したり、お坊さんの講話を聞いたりしました。

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 事後授業は10月18日に行われ、児童たちは何をトップニュースにするか元気よく発表していました。楽しかった体験の「5W1H」を振り返り、見出しのつけ方や紙面レイアウトの仕方などについてもしっかり学びました。

 その後、各自がオリジナル新聞を作る作業に入り、個人差はありますが、大体3~4時間ほどで仕上げることができました。出前授業で配られた資料を見返しながら下書きしている児童もいました。「もっとみんなが読みたくなるような見出しにしたい」「自分が見たこと、感じたことが読者に伝わる新聞にしたい」と工夫を凝らし、頑張っていました。

 児童たちが思い思いに完成させた新聞は本校の廊下に掲示し、他学年も見られるようにしています。

鈴木ほのか(姫路市立大塩小学校教諭)(2023年12月1日)

[写真㊧㊤]製作した新聞を見る児童たち=姫路市立大塩小学校[写真㊨㊤]諸堂を巡る児童たち=10月10日、姫路市の書写山円教寺

※林間学校の出前授業の記事はこちら

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 10月17日、大阪市立本田(ほんでん)小学校で、兵庫県NIE推進協議会の三好正文事務局長を講師に招き、小学1年生140人を対象にした出前授業「新聞って何? 新聞づくりに挑戦しよう!」を行った。

 秋の遠足で10月13日、天王寺動物園(大阪市天王寺区)に行った思い出を個人新聞にまとめるのを前に、授業をお願いした。1年生の子どもにとって、新聞づくりは初めての活動である。

 三好事務局長は、新聞に触れたことがない多くの子どもたちに、「新聞とはどのようなものか」(世の中のあらゆる出来事を記事にして、みんなに伝えるもの)や、新聞をつくるときのポイントについてわかりやすく説明。

 記事を書くときは、「自分のイチオシの動物について書こう」「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を使って、わかりやすく書こう」、見出しをつけるときは「10文字以内、具体的に考えよう」(「キリンさん、高いね」ではなく「高さ6㍍、キリンの〇〇くん」という感じに)、レイアウトでは「写真を紙面の真ん中に載せよう」など、1年生が理解できるように具体的に伝えた。

 今後、子どもたちは動物園で感じたことを記事にする予定だ。「キリンが葉っぱを食べていたことを書きたいな」「ペンギンが泳いでいたことを1番目の記事にしよう」「クロサイとホッキョクグマについて書こうかな」と、記事の内容を考え、早く新聞づくりに取り組みたいという意欲がみられた。子どもたちは、完成した新聞を三好事務局長に読んでもらうことを楽しみにしている。

 今回の授業は、日本新聞協会の近畿ブロックNIEアドバイザー・NIE事務局長会議(8月24日、朝日新聞大阪本社)で、三好事務局長とNIE実践について交流したことがきっかけで実現した。府県の垣根を越え、幼稚園から大学までたくさんの出前授業をされている三好事務局長の授業は、小学1年の子どもたちにとって、新聞とのすてきな出合いの場になった。

田内 智恵(日本新聞協会NIEアドバイザー/大阪市立本田小学校主務教諭)(2023年10月27日)

[写真㊤]「イチオシの動物は何かな?」。府県を越えて実現した出前授業=大阪市立本田小学校[写真㊦]授業で使われた資料の一部。「阪神リーグV」の神戸新聞号外が登場するのは、兵庫ならでは

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 児童が作った新聞の一例はこちらからご覧になれます。

 最初の任地は北海道室蘭市だった。赴任し一人暮らしを始めたとき、役所で転入手続きをし、電気・水道・ガス・電話などの開通開栓手続きを終え、最後に新聞の契約をした。

 翌日の朝、まだ何もない家のポストに地元の北海道新聞が届く。天気予報はどの地区を見ればいいのか、テレビのチャンネルはどうなっているのか―など新鮮な驚きとともに、教員生活が始まった。やがて電話帳にも名前が載り、自分の人生が始まったことを新聞と電話帳から実感した。個人情報の保護など全く考えられていなかった36年前の話である。

 日本新聞協会の「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、発行部数を世帯数で割った「1世帯当たりの部数」が、2000年は1.13で22年は0.53、約20年間で半分以下になっている。授業で「新聞を使いますので、持ってきてください」と生徒に声をかけても「新聞が家にないのですが」「ネットではだめですか」という声も多く、自宅に紙の新聞がないことを前提に「家にある新聞を持ってきてください。なければこちらで用意します」と言うようになった。

 そんな実態を踏まえながらも、紙の新聞と出合い、新聞を通して人についてよく知ることで、地域や日本、世界、地球、さらには宇宙の現在・過去・未来について考えを深めてほしい。新聞が、よりよく生きるために他者の考えを聞き、自分の考えを深め表現するためのツールになれば、という思いでNIE活動に取り組んでいる。

                           ◆

 NIE授業は新聞を読むところから始まる。日本新聞協会の「新聞を活用した教育践データベース」をはじめ、兵庫県NIE推進協議会のNIE実践報告書などにも数多くの実例が紹介されている。

 一歩進めて、生徒が自主的に新聞を活用するにはどうすればいいかと考え、学習支援アプリ(ロイロノートスクール)を用いて授業に新聞を取り入れるようにした。名づけて「週刊国語表現」。週一度、70~90本の新聞記事を各自のタブレットに配布し、漢字の小テストに利用するとともに、授業のたびに、記事から感じたことや気づいたことを提出させ、生徒同士で共有している。毎時間席替えを行い、パフォーマンス課題に取り組むにあたって、「小さな相談会」として3人1チームでプレゼンテーションし合い、他の生徒の視点や考え方に触れられるよう毎時間繰り返し行っている。

 生徒は仲間の視点を知ることで触発され、「週刊国語表現」の読み方が深化し感想の字数が飛躍的に増えた。(資料1、2)

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 字数制限せずに考えたことをできるだけたくさん言語化することで、自身の考えを「見える化」できる。それは、さらにより多くの字数を書くことにつながり、内容の深化も図れているのではと思う。(資料3)

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          ◆

  日ごろ新聞を読んだことがない生徒にとっては、新聞はある意味「特別なもの」だが、日常的に大量の記事を目にすることで新聞に慣れ、仲間の異なる見方に気づくことで、自分の見方で読んでみようという気になるのではないか。

 生徒からは「新聞を読むことで社会の出来事に関心を持つようになり、テレビのニュースもよくわかるようになった」「最近のニュースについて夕食時、親との会話が弾むようになった」という声も聞く。

 これまでの取り組みを通し、生徒は新聞から得られる情報の多様性と信頼性、さらには新聞を読むことの面白さを知ることができたのではと思う。

 今後もさまざまなパフォーマンス課題に取り組みたい。そのとき、新聞や書籍、雑誌、インターネットのサイトや交流サイト(SNS)など多様なメディアから必要な情報を選び、使いこなせるようになればいい。新聞を与えられて読むのではなく、現実を知り、解決策を考え深めるとき、「そうだ、新聞を読もう!」という思いになれば、と考えている。

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 「新聞を読む」のが当たり前だったのは一昔前のことだ。だからこそ、改めて新聞に触れ、面白いと感じる体験を積むことが大切になる。その結果、社会や身の回りに起こっている出来事に疑問を持ち、もっとよくしていこうという姿勢が育まれるのではないか。新聞は、若い世代がよりよい未来を考える上で、身近で大切なツールだ。今後も生徒と新聞との出合いの場をつくっていきたい。

米田 俊彦(日本新聞協会NIEアドバイザー/愛徳学園中・高校教諭)(8月21日)

各地の教員研究組織

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 西宮市立浜脇中学校(生徒数840人)は2023年度、教育課程・学校教育目標に「NIE活動」を掲げた。社会とつながる個と集団の育成に向け、NIEの定着を図りたい。生徒たちに現代的な課題に向き合うスキルと態度をはぐくんでもらい、地域や社会とつながる数多くの機会を提供したい。

 さらに、主体的な学びを通して、社会全体を多面的・多角的に考察し、他者と対話する中で、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の11番目「住み続けられるまちづくりを」を地域のテーマとし、主権者教育にもつなげたい――。そんな思いをこめた。

 具体的なNIE活動としては、いずれも全校生で週1回取り組んでいる「朝NIE活動」と「NIEノート」が挙げられる。「朝NIE活動」は10分間、生徒たちが、新聞社が作成している「新聞ワークシート」に挑戦し、時事問題への関心を高めている。「NIEノート」は各自が自宅で興味のある記事をスクラップし、意見や感想、提案を書き込んだ上、社会科授業の冒頭に意見交換し、数人が調べたことなどをプレゼンテーションしている。

                     ◆

 本年度、当校では、兵庫県NIE推進協議会と連携して「大学・企業の協力と支援を学校につなぐNIE活動」研究会も発足させた。NIEとSDGsを関連づけた取り組みなどを続けている。

 まず、日本国際博覧会協会主催の「リサーチミーティング」に毎年、全校生が参加している。大阪ガスや阪急阪神HD、大日本印刷、三菱自動車、NTTなど著名な企業によるSDGs講座を通じ、各企業のSDGsの取り組みを学んだり、企業と生徒の双方向でディスカッションしたりしている。

 二つ目は、桃山学院大学ビジネスデザイン学部(大阪市)と神戸ウォーターフロント機構、読売新聞社が主催する「中高生SDGsアイデアコンテスト」に、希望する生徒が参加している。

 神戸臨海地域の未来を考えるコンテストで、本校は22年度、最優秀の神戸ウォーターフロント機構賞を受けた。シービン(海洋ごみ回収装置)の活用により湾内清掃から回収したペットボトルを再利用してブローチなどにして神戸市内で販売する――という提案が評価された。

 併せて、優秀賞の桃山学院大学ビジネスデザイン学部賞も受けた。こちらは、KOBERというアプリを活用し、神戸市内を一つのテーマパークとする。その街中を歩くとポイントが貯まり、協賛店で活用できる。また歩道に発電機を設置し、歩く重みによって街で使う電気を作るという提案だった。

 三つ目は、SDGsとEXPOを絡めた学習だ。1年生の校外学習として、2025年大阪・関西万博に主体的な学びの中で参加しようという思いで続けている。おおさかATCグリーンエコプラザでのSDGs学習や、日本万国博覧会協会によるEXPO2025の学習、エイジレスセンターでの福祉教育などを関連づけ、楽しみながら学んでいる。

 最後に、アイデアミーティング。SDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」をテーマに、生徒各自が、新聞記事から題材を見つけ、その記事内容に関連づけ、自分たちの住んでいるまちの発展や課題解決に向けて、アイデアを練ってプレゼンテーションしている。

 こうした取り組みはいずれもNIEがベースにあり、新聞を通じて社会問題への関心や理解を深めていく中で、生徒たちが多様な学びを深化させている。

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 今後は、地域とのつながりや、幼稚園や小学校との連携をいっそう強めたい。生徒たちが地域課題の解決策を考え、まちの可能性を見いだし、主体的にまちづくりに参画していくようNIE活動を継続していきたい。

渋谷 仁崇(日本新聞協会NIEアドバイザー/西宮市立浜脇中学校主幹教諭)(7月18日)

[写真説明]日本国際博覧会協会の講座に参加した浜脇中の生徒たち=今年5月24日、おおさかATCグリーンプラザ(大阪市住之江区)

各地の教員研究組織

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 宮城県内の中学生が東日本大震災の被災地を取材してまとめた「震災伝承新聞」を活用した授業が3月13日、西宮市立浜脇中学校であった。震災伝承新聞は、河北新報社(仙台市)が取り組む「今できることプロジェクト」の一環で、今回は、仙台市立八乙女(やおとめ)中学校▽多賀城市立東豊中学校▽名取市立閖上(ゆりあげ)小中学校の計26人が記事を書いた。浜脇中学校は西宮市教育委員会を通じて取り寄せ、1、2年生約80人が記事を読み、感想をまとめた。行方不明の妻を捜すため潜水士の資格を取った男性、つらくて話せなかった体験を語り始めた大学生--。生徒たちが大震災発生から12年がたった被災地に思いを寄せた。授業を担当した先生2人に、授業のねらいや感想などを寄稿してもらった。

浜脇中学校 野上 耕佑教諭

 「震災伝承新聞」を用いて授業を行いました。ねらいは,この新聞を通して、発行した宮城県の中学生たちの思いや伝えたかったことについて考えさせることです。授業では、各中学校の新聞を班で分担して読み、彼らが伝えたかったことについて考え,最後にホワイトボードを用いて発表しました。

 生徒たちは、宮城県の中学生たちが記憶が定かではない頃に起こった東日本大震災を「自分ごと」として考え,後世にバトンをつなごうとしている姿を通し、自分たちは何ができるのか真剣に考えていました。

 それは,日頃からNIE教育を進めている浜脇中学校の生徒にとって、新聞という媒体が身近であり,そこから彼らの思いを読み解こうという姿勢が見られたからだと思います。これまでのNIE教育の手法が活用できた場だったので前向きに進めることができ,生徒の成長が感じられました。
 

浜脇中学校 西村 哲教諭

 2年生は、2時間設定で授業を計画しました。第1時は、東日本大震災当時の新聞各紙を読み込んでいきました。3月12日~20日頃の実物の新聞を手にし、食い入るように読んでいる姿、印象的な記事を見つけて隣の生徒と語り合う姿、どういう状況の写真や見出しなのか問いかける姿がありました。

 第2時に、「震災伝承新聞」を読み込んでいきました。第1時に読んだ記事から12年が経過した現在の様子や取り組みを知り、復興の進捗に感心するとともに、12年がたっても消えない痛みや悲しみを知り、「まだ震災は終わっていないのだ」とつづった生徒もいました。

 自分たちのNIEと他校のNIEという視点で興味を抱いた生徒、自らの生徒会活動と結びつけて考える生徒もいました。知識としての「震災」から、語り継ぐ「伝承」、そして「今、私たちができること」へと学びを深めていきました。

※同校は2023年度から、日本新聞協会のNIE実践指定校に決まっています。

三好 正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)(2023年3月30日)

[写真説明]「震災伝承新聞」を読む西宮市立浜脇中学校の生徒=同市宮前町

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 明石市内の教員らでつくるNIEの研究会が3月末、約15年間にわたって世話人を務めてきた同市立大久保小学校の若生(わかお)佳久主幹教諭(60)=日本新聞協会NIEアドバイザー=の定年退職に伴って休会した。1991年4月の発足から30年余り、数多くの新聞を活用した授業に取り組み、兵庫のNIEの推進力となってきた。

 若生教諭は現在、再任用教員として同校の教壇に立ち、「研究会はひとまず休会するが、今後もNIE活動の幅を広げていきたい」と話す。

 若生教諭が研究会に初めて参加したのは、高砂市内の小学校から明石市立二見北小学校に異動した97年。同僚の誘いだった。「新聞を使った授業は面白い」と熱中し、赴任した市内各小学校で、多様な教科・領域でNIEを展開してきた。

 当番の児童がその日の記事から「イチオシ記事」を発表する▽各自が気に入った記事を1週間分スクラップし、新聞を作る▽新聞から文字数の多い熟語(複合語)を探すーなど。「4コマ漫画で『起承転結』を学ぼう」と、「新聞に載っている大きな数を探そう」は、日本新聞協会が2020年発行した、教員向けガイドブック「 新聞で授業が変わる(小学校編)」に収録された。

 研究会は、あかし教育研修センターの助成を受け、大久保小学校の教諭5人が活動。21年度は、国連のSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに新聞を作るなどしたが、若生教諭が定年を迎えたことで、活動に一区切りつけた。

 若生教諭は「社会の動きを知るツールとして新聞は最適。情報通信技術(ICT)機器を活用した授業が主流になっているが、新聞紙の紙媒体の実践も続けていきたい」と話している。

三好 正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)(2022年4月11日)

[写真説明]ウクライナ有事の記事を教材に、見出しから前文を考える授業を行う若生教諭=3月16日、明石市立大久保小学校

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 地理の授業の冒頭で、1日1人ずつ新聞記事を紹介する取り組みをしている。今年の2月になり、何人もの生徒がウクライナのことを取り上げ始めた。発表を聞いている生徒の中には、「何が起こっているの?」「どういうことなの?」との疑問の声もあった。そうこうしているうちに2月24日、ロシアがウクライナに本当に侵攻してしまった。これは大変なことになる。どうしよう。自分には何ができる? 迷ったあげく、同僚に「授業でウクライナを取り上げませんか」とメールを送った。

                                ◆

 子どもたちは、地理、歴史、道徳などで、ある程度はヨーロッパのことや戦争を学んでいる。教科書の学びにとどめず、現実に起こっている世界的な大事件に、日常の学びを結びつけられるかもしれない。単に「戦争反対」や「かわいそう」にとどまらず、学んだ知識や調べた情報をもとに、自分の頭で、この大事件を考えさせたい。そんな思いのもと、授業を企画した。

 生徒たちはまず、ウクライナ・ロシアの地理・歴史を調べてまとめた。小麦の産地であったり、地下資源のパイプラインが地理の教科書に掲載されたりしているのを見つけていた。歴史の教科書では、ロシアの国の広がりの歴史を見つけたり、日露戦争、ロシア革命、ソ連崩壊のページを丹念に読み込んだりしていった。

 次に生徒たちは、いくつかのキーワードを検証していった。こちらが指定したのは、クリミア、アフガニスタン、ヒトラー、キューバの四つ。ここで一つ興味深い現象が起こった。クリミアを調べた生徒のなかに、2014年のクリミア問題のみならず、19世紀のクリミア戦争を調べる生徒がいた。アフガニスタンでも同様で、20世紀のアフガニスタン侵攻を検証した生徒と、2021年のアフガニスタン問題を検証した生徒がいた。

 僕たち大人は、どうしてもNATO(北大西洋条約機構)やソ連といった冷戦構造に縛られて考えてしまうが、生徒たちにそんな縛りは存在しない。生徒たちは、大人が想像するより、もっと柔軟で、もっと思慮深く、もっと多面的に分析を進めていった。

 最終段階で、生徒たちは、これから先に心配されるシナリオを予想したり、自分の意見をまとめたり、今回の当事者への手紙を書いたりしていった。ある者はウクライナから避難している人々宛てに、ある者はロシアの中で戦争に反対している人宛てに、またある者はウクライナの中学生宛てに。ウクライナ語、ロシア語で表現しようとする生徒もいた。

 授業する教師にさえも解決方法が分からない大事件。生徒も教師も自分の頭で考え続けるしかない。「考え続けること」こそが本当の意味での社会科授業なのかもしれない。

西村 哲(西宮市立浜脇中学校教諭)(2022年3月30日)

[写真説明]ロシアによるウクライナ侵攻をテーマにした授業=西宮市宮前町3、浜脇中学校

※昨年12月17日、県内4小学校の児童たちが合同で作った新聞のオンライン発表会が行われました。担当した4校の先生にねらいや成果についてご寄稿いただきました。

                              藤岡絵美・神戸市立淡河小学校教諭

 「NIEで4校を繋(つな)ぐ会」では、各校の高学年児童が、各地域の事柄について調べたことを新聞記事にまとめ、内容をオンラインで発表し合った。

 オンライン交流に向けて、本校の6年生は地域の歴史について、5年生は地域の産業について調べ活動を行った。地域に取材に出かけ、新聞記者になったつもりで見出しを考え、文字数に気を付けながら文を作成した。子どもたちは制限された文字数の中で自分の考えをまとめることの難しさを感じつつも楽しみながら活動していた。オンライン交流では、他校の児童の発表を聞いたり、他校の児童の前で発表したりと、少人数では体験が難しい貴重な経験をすることができた。

 児童は、新聞づくりを「限られた字数の中で自分の思いを表現するのは難しい。でも、面白い」と話し、みんなに興味をもってもらえるよう文の構成を考えていた。また、オンライン交流会では、「いろんな学校の人と交流ができて楽しかった」「その学校の地元のことを知り、行ってみたくなった」と話すなど、日ごろできない体験に大きな刺激を受けていた。

 子どもたちは、言語力の育成はもちろん、地域取材をきっかけとした古里を愛する心の育成、他校の児童との交流によるコミュニケーション能力の向上など、非常に多くの力を培うことができたと感じている。

                      ◆

                                   豊田耕司・神戸市立有馬小学校教諭

 4小学校をつないで、合同新聞の製作とオンライン発表会をすることになり、有馬小学校の6年生が選んだテーマは「有馬川のホタルを守りたい」という内容であった。

 本校は30年にわたって、ホタルの飼育に取り組んでいて、毎年、近くの有馬川に放流している。そんな中、昨年、ホタルのすみかを奪う河川工事が始まった。子どもたちから「何とか生息地を守りたい」という声が上がり、ホタルを飼育していることを知ってもらうことで、観光地・有馬の整備とホタルが棲(す)める環境の両立についてみんなに考えてもらいたいという思いで、新聞づくりに取り組んだ。

 新聞づくりに当たっては、デスクやカメラマンなど子どもたちが役割分担をして主体的に進めることができたことも、各自の意欲を高めることにつながった。

 県内の小規模校の友達と意見交流する機会が持てたことも、子どもたちにとって大きな経験になったと感じている。また、他の小学校がそれぞれの地域を調べ、発表したニュースについて、とても興味深く聞くことができていた。

 今後、小規模校であることをメリットととらえ、オンラインのいっそうの活用など新たな交流の方法を模索したい。

                      ◆

                              栄羽麻里・養父市立宿南小学校教諭

 5年生は、兵庫で一番高い氷ノ山について調べ、記事にまとめた。関心を持ったのは、昨年9月の自然学校が契機になった。登山を前に標高や自然、頂上の様子を調べたことで、美しさや雄大さ、険しさを体感した。その感動をぜひ発信したいという思いで交流会に臨んだ。

   6年生は、宿南地区の先人で、江戸期の儒学者である池田草庵先生についてまとめた。草庵先生については3年生から学び、草庵先生が教えを説いた私塾「青谿(せいけい)書院」を訪ね、地域の方の話も聞いてきた。その体験から、各自が大切にしている草庵先生の教えを披露した。

 記事をまとめ、発表の練習を行う中で、児童に交流会を楽しみにする気持ちが生まれた。はっきりした目標を持つことで、一人一人が意欲的に臨めた。

 当日は堂々と発表できた。日ごろは少人数のため、声が小さいなどの課題がみられるが、この日は他校の児童を意識し、大きな声で、ゆっくり、はっきりと発表した。感想も一人一人がよく考え、他地域の環境や産業、歴史的建造物のすばらしさや発表方法の工夫についてしっかりと伝えることができた。

 児童は、県内にはさまざまな地域があり、特性を生かした取り組みが行われているのを知った。小規模校でもオンラインを使えば他校とつながり、見聞が広がることも実感した。来年度も4校で協力したい。

                      ◆

                             大下真季・淡路市立大町小学校教諭

 今回、このような「ふるさと新聞」の製作を通して、兵庫県内の4地区の小学校で交流することができ、担任、児童ともども、貴重な経験をさせてもらうことができた。

 事前に自己紹介する記事を選ぶときに、他地区に伝えるとしても、「淡路島」や「淡路市」というくくりではなく、主語が校区である「大町」であることも、担任としては大きな発見だった。子どもたちが、慣れ親しんだ地元の大町に愛着をもち、その良さを伝えたいという気持ちの強さをあらためて確認することができた。

 現在、コロナ禍で他校との交流が積極的にはできない中、小規模校である本校の児童たちにとって、オンラインを通じての他地区との交流は、新鮮で刺激的、かつ視野を広げられる、よいきっかけとなったようだ。

 自分たちが発表することだけでなく、発表に対して、他校の児童から質問を受けたり、感想をもらったりして、照れながらもとても喜んでいる児童の表情がとても印象的だった。

 一方的なものだけではなく、交流することで、子どもたちもやりがいや達成感を強く感じ、さらに自分たちのふるさとへの想いを強めていると感じた交流会だった。

※4小学校によるオンライン発表会の記事はこちら。

 ※1月21日の小・中連携授業を担当した2人の先生にねらいや成果についてご寄稿いただきました。

                                廣畑彰久・愛徳学園中・高校教諭

 愛徳学園中・高等学校は、2020年度よりNIE実践指定校として活動を行い、21年度には、小中高合同のNIE研究会も発足しました。その最初の取り組みが、今回の小・中による連携授業です。

 本校の中学3年生は、修学旅行で広島を訪れます。21年度も、事前学習で被爆された方からお話を聞くことができたのですが、被爆者の高齢化が進み、記憶の継承が課題とされています。そこで、生徒に、平和学習の受け手に終わらず、主体的に発信する側の立場になってもらうのが、取り組みのねらいです。

 生徒の感想には「修学旅行を終えて時間がたち、忘れかけていた平和に対する関心が高まった」という意見が多く見られました。また、「小学生相手にわかりやすく伝えることに苦戦した」という意見も多く、コンテンツはもちろん、言葉選びやレイアウトに至るまで、彼女たちなりに工夫した跡がうかがえます。

 反省点は、準備の時間が十分でなかったこと、感染症対策や欠席者の対応でスムーズにいかなかったことです。平和学習の面では、修学旅行の体験から少し時間を空けて取り組むことで、失われつつあった生徒たちの関心を取り戻せたこと、表現について学習するという面では、年下を聞き手とすることで、生徒の意識が高まったことに大きな手応えを感じています。

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                                 彦野周子・愛徳学園小学校教諭

 愛徳学園小学校と中・高等学校は同じ敷地内に隣接しているため、普段からさまざまな場面で交流が盛んです。

 本校のNIE研究会はそのような環境の下、中・高等学校が2020年度からNIE実践指定校になったことをきっかけに発足しました。

 今回、中学3年生は公民科、小学6年生は社会科の授業の一環として「連携平和学習」を行いました。

 小学校社会科の大きな目標は「平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を養う」ことです。そのため歴史的事象の意味を多角的に考え、深めることが必要となってきます。

 その手立てとして、戦争に関する複数の新聞記事を読み解き、内容や感想を共有することが効果的な学習方法だと考えました。しかし、第2次世界大戦について初めて学ぶことの多い小学生だけでは記事の内容を正しくとらえ、考えを深めるまで至るには難しい面がありました。

 そこで、中学生との連携学習という形をとりました。小学生は教科書や資料だけでは知り得なかったことを知り、中学生から「戦争を語り継ぐ」意味や大切さを伝えてもらうことによって、過去の戦争から学び、平和を守り、つくっていくとはどういうことなのか考える機会になったと思います。

※小・中連携授業の記事はこちら。

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 NIE(教育に新聞を)活動の一環として、中学3年生が「ヒロシマ」をテーマに作った新聞を通し、小学6年生に平和の大切さを伝える授業が1月21日、愛徳学園小・中学校(神戸市垂水区歌敷山3)であった。

 同学園の教諭でつくる「NIE研究会」の企画。同研究会は小学校から高校まで、NIEによる学びを継続発展させようと活動している。

 中学3年生は昨年10月、被爆76年となった広島への修学旅行で、当時の惨状や記憶を継承する語り部を取材。新聞記事で、原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟についても学び、グループごとに新聞を作った。

 授業は中学3年生約30人が参加。コロナ対策のため別の教室の小学6年生にオンラインで話しかけた。完成した新聞を紹介しながら、「戦争の悲惨さを語り継ぐのが人間の責任」「『黒い雨訴訟』を知り、被爆者の苦しみは今も続いていると分かった」などと述べた。講師を務めた姫野さくらさんは「戦争を体験した人たちの思いを、小学生に分かりやすい文章にするのは難しかった」と話した。

 小学6年生は17人が参加した。小野綾芭(あやは)さんは「きょうの授業のように、戦争の悲劇をさまざまな方法で学び、未来に平和をつなぎたい」と話していた。(三好正文)=23日付神戸新聞朝刊神戸版

[写真㊤]平和の大切さを伝える生徒たち=いずれも神戸市垂水区歌敷山3(愛徳学園提供)

 生徒の感想 足立理羽さん(中3)「小学生に伝えるには、原爆の恐ろしさをより深く知っていないといけないことに気づいた」

 児童の感想 小嶋悠那さん(小6)「戦争がもう二度と起こってほしくないという思いになった」

※生徒たちが「ヒロシマ」をテーマに作った新聞はこちら。   [写真㊦]新聞記事を調べる生徒たち                             

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※「わたしの感想NIE」に児童生徒のみなさんの感想を掲載しています。

※担当した2人の先生の寄稿はこちら。

兵庫県NIE推進協事務局から

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  興味ある記事を要約、グループ討議

    尼崎市立南武庫之荘中学校の2年生225人が、日刊紙6紙を読み比べ、記事の要旨や感想を書き記す「新聞ノート」の作成を続けている。教育現場で新聞を活用するNIE活動の一環。話を簡潔にまとめる「要約力」や、自身の意見を端的に伝える「表現力」を養う取り組みといえそうだ。

 同校は2021年度の日本新聞協会NIE実践指定校。生徒たちは1学期の国語の授業で、新聞記事を100字以内に要約し、200字以内で感想や意見を記すノートづくりに取り組んできた。

 例えば昨年4月、競泳の池江璃花子選手が白血病から復活し、東京五輪代表入りを果たした記事。生徒たちは「どのような気持ちで白血病と闘ったのだろう」と池江選手の心情に思いをはせ、「白血病について知識を深めたい」などとまとめた。

 昨年12月13日には、2年1組で発表会があった。テーマは「国連の持続可能な開発目標(SDGs)」で、約35人の生徒が4人程度のグループに分かれ、それぞれが選んだ新聞記事をもとに意見を交わした。

 ある生徒は「国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)」関連の記事を取り上げた。森林破壊を止めるため、各国が官民合わせて2・2兆円近くを援助する―という内容に「巨額の資金をどう調達するのか」と首をかしげた。

 各グループ代表による発表もあった。「『気候正義』実現への道」という記事を取り上げた生徒は、地球温暖化による海面上昇で水没の危機にある南太平洋の島国ツバルについて「先進国に生きる一人として、具体的な救済策を考えないと」と強調した。

 生徒たちは「記事を通し、水質汚染の課題解決など私たちがすべきことを考えることができた」(中川堪太(かんた)さん)、「グループ討議で、自分とは違う考え方に気づかされた」(藤原優花さん)、「SDGsにちなんだ記事を読み込むことで、関連する事柄や諸外国の実情を深く知ることができた」(本橋天花さん)などと振り返った。

 同校国語科の中嶋勝教諭によると、生徒たちは記事の要約も、回を重ねるたび上達してきたという。「多様なニュースから興味関心のある記事を選ぶことで意欲的に取り組むようになった」と手応えを語る。

(兵庫県NIE推進協議会コーディネーター 石原丈知)

[写真説明]「新聞ノート」を持ち寄ってグループ討議する生徒たち=尼崎市南武庫之荘4、南武庫之荘中学校

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 2021度も新型コロナ感染症対策のため、学校生活の制約が多い。その中でNIE活動を実践してきた。

   明石市では、教員でつくる「NIE研究会」がNIE活動を行っている。当研究会では、研究授業や公開講座の開催、教員への情報提供、会員同士の実践・情報交換を行い、知識と経験を高めている。

 20年度は日本新聞協会のガイドブック改訂に伴い、授業例も提案した。内容として、国語科の物語の構成「起承転結」を理解させるための4コマ漫画の利用や、3年算数科「大きな数」を新聞から探し出す授業(4年でも実践可)である。

 20年度は感染の不安から接触、共有を「しない」「させない」に配慮した。また、長期休業に伴う授業時数の確保という点から新聞係の新聞作成という活動しかできなかった。

 しかし、21年度は感染予防に配慮し、実践も少しずつ行ってきた。学級内の新聞係の活動やお気に入りの新聞記事の切り抜き(感想入り)、終わりの会での発表を行った。授業では、5年社会科で新聞記事から世界の国を見つけ、世界地図に落とし込む授業も行った。新聞の共有ができないため、1人1部の使い切りという厳しい条件ではあったが...。

 ICT機器を活用し、新聞記事の撮影、データの共有から記事についての意見交換やデジタル新聞の作成などの活動にも取り組んだ。ICT機器の利用が中心の授業実践が多くなっているが、新聞紙の紙媒体の実践も残していきたいものである。

若生 佳久(明石市立大久保小学校主幹教諭/日本新聞協会NIEアドバイザー)(2022年1月10日)

[写真説明]教員による新聞活用のワークショップ=明石市立大久保小学校

ougoougokoutoku.JPG 神戸市北区淡河町萩原の淡河好徳幼稚園の園児28人と、隣接する淡河小学校1、2年生17人が、新聞紙で建物など造形物を完成させました。協力して頑丈に作り上げました。新聞紙を使った工作も新聞活用術。これからも新聞に触れる機会を増やしてほしいです。

   (兵庫県NIE推進協議会事務局長 三好正文)

 9月、淡河好徳幼稚園で行われた「幼児向けNIE活動」の記事はこちら。

 11月、大沢幼稚園(神戸市北区大沢町)で行われたNIE活動の記事はこちら。

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 県内の4小学校が合同で作った新聞のオンライン発表会が12月17日、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で開かれた。児童たちはそれぞれの地元で取材した歴史や自然、町の話題について伝え合った。

 神戸市北区の淡河小と有馬小、淡路市の大町小、養父市の宿南小。教員による「NIEで小規模校を繋(つな)ぐ研究チーム」の活動の一環で、より多くの児童が交流できる機会にと企画。11月に合同で新聞を製作した。

 淡河小が江戸時代の大名が泊まった「淡河宿本陣跡」について紹介したほか、有馬小はホタルの飼育や幼虫の放流、大町小は給食で出た淡路牛のステーキやハモの天ぷら、宿南小は県内一高い氷ノ山など、各校とも思い思いのテーマで取材した内容をアピールした。

 発表後、「(本陣跡の)うぐいす張りってどんな音がするの」「氷ノ山を登ってみたい」といったお互いの発表に対する質問や感想を交わした。

 淡河小5年の石井咲来さん(11)は「記事はポイントを集めて短くまとめるのが難しかった。(他校の)発表では有馬小のホタルの飼育がすばらしいと思った」と話した。(小野萌海)=18日付神戸新聞朝刊広域A・B版

[写真㊤]オンラインで交流する児童たち=神戸市北区淡河町萩原、淡河小

[写真㊦]交流の感想を発表する児童=養父市八鹿町宿南、宿南小(宿南小提供)

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4校の児童が共同製作した新聞はこちら。

※「わたしの感想NIE」に児童のみなさんの感想を掲載しています。

※担当した4人の先生の寄稿はこちら。

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 初めて学校で新聞を作ったときのことを覚えていますか?

 現在、姫路市立豊富小中学校3年生の児童が「大豆新聞」を作成しています。大豆をテーマにした総合的な学習を通して、大豆を栽培・収穫・調理した体験をもとに、グループごとにテーマを設定し、記事を分担して模造紙にまとめていきます。                                 

 記事の作成にあたって、児童は学校図書館の図書資料や、1人1台のタブレット型端末を活用し「調べ学習」を進めています。各自で調べたことを大きな模造紙に新聞としてまとめるのは、3年生にとって初めて取り組む魅力的な学習です。

 この「新聞づくりとの出合い」の手ごたえを今後につなげるため、いくつか工夫をしました。まず、栄養教諭や学校司書による学習支援です。大豆と身の回りの食品とのつながりについて考える「食育の授業」や、大豆に関係する図書資料を選書・各教室へ配架し、いつでも読むことができるようにする「調べ学習支援」など、校内の人材が「体験と学びをつなぐ場」を設定しました。

 次に、地域資源による学習支援です。3年生の児童が大豆を育てているのは学校近くにある農場「わくわくファーム」です。地域団体の方に大豆栽培のノウハウを教えていただき、四季の移ろいと地域の温かさを感じながら取り組んできました。

 そして、新聞記事の活用です。新聞づくりに際し、見出しの工夫や写真の役割などについて実際の紙面を参考にしました。大切にしたキーワードは「だれに」と「なにを」、つまり相手と目的です。児童は、自分も新聞記者になった気持ちで見出しやレイアウトを一生懸命考えていました。完成した新聞には、各自が作成した大豆の観察記録のQRコードも掲載する予定です。

 新聞づくりに取り組んだ3年生の児童からは、「読む人が見やすいように丁寧に書きました」「みんなで協力して新聞をつくるのは、すごく楽しいです。大豆のことを、いろんな人に知ってもらいたいな」などの感想を聞くことができました。

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      ◆

 先日、6年生は奈良・京都方面への修学旅行で学んだことについて、クラウド型新聞製作アプリを使って個人新聞にまとめました。 

 7年生は人と防災未来センター(神戸市)での見学にタブレット型端末を持参し各自で取材しました。今後、収集した情報や体験から学んだことをもとに新聞にまとめていく予定です。

      ◆

 本校は9年制の義務教育学校のため、発達段階に応じて新聞づくりの経験を積み重ねている様子がよくわかります。各学年では教科学習や体験活動のまとめとしての新聞づくりが進んでいるほか、新聞委員会(5~6年生)による学校新聞も発行しています。図書委員会(7~9年生)による図書通信の発行も始まりました。この委員会活動としての新聞は、自分たちで編集会議を重ねながらクラウド上で作成しています。

 このうち、図書通信は学校内のWebサイトで公開し、児童生徒や保護者、教職員が自由に閲覧できる仕組みにしています。従来の紙での配付に比べ、作成における加工・編集が容易となり、より幅広い対象に鮮明で読みやすい情報を届けることができるようになりました。
 これからも新聞づくりの経験を積み重ね、情報を発信する楽しさ、伝える喜を感じてほしいと願っています。

井上幸史(姫路市立豊富小中学校教頭/日本新聞協会NIEアドバイザー)(2021年11月22日)

[写真説明]
①タブレット型端末の情報も参考にしながら、模造紙に記事を書く児童
②人と防災未来センターで学んだことを記録に残す生徒
③クラウド型新聞製作アプリを活用した修学旅行新聞の例
④図書委員会の生徒が作成した「図書通信」の例

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 神戸市垂水区の愛徳学園小学校で10月21日、NIE活動の一環として、1、2年生29人を対象に、新聞から「秋」を探す「新聞で秋みつけ」の授業を行いました。10月半ばまでの季節外れの暑さから一転し、深まる秋を肌で感じながらの取り組みとなりました。

 愛徳学園は小・中・高校が同じ敷地内にあります。日ごろから、児童生徒や教職員の交流が活発で、今年5月には、小中高一貫の「NIE研究会」が発足しました。小学校から高校まで、NIEによる学びを継続発展させるのがねらいです。

 その中で、小学校低学年向けの新聞活用の一つとして、生活科の授業で「新聞で秋みつけ」を計画しました。ねらいは、子どもたちが、その季節ならではの風物詩や風情をたくさん知ったり感じたりすることで、四季の移ろいを楽しむ心を育んでもらうことです。

 低学年はまだ記事を正確に読むことができないので、カラー写真が載っている、分かりやすい記事を選んで使用します。授業では1、2年生でペアになり、まず、「秋」で思いつくことを発表し合いました。ドングリ、ブドウ、カキ、お月見...。生活となじみ深いものがたくさん出てきました。

 次に、「秋」を感じさせる新聞記事を印刷したものをグループごとに配りました。児童たちは記事の写真を見たり、分かる部分を読んだりして、感じたことや初めて知ったことを、2年生が1年生をサポートしながら文にしました。

 最後に、グループごとに新聞を1部ずつ配り、その中から「秋」の記事を見つけ、切り抜く活動をしました。絵画展やスポーツの記事を「芸術の秋」「スポーツの秋」と言いながら切り抜く児童や、満月の写真を見ながら「なぜ、月はきれいなのか」について話し合う児童も。それぞれのグループでさまざまな「秋」を見つけたようです。書いた文と切り抜いた記事を画用紙に貼り、壁新聞を作りました。

 できあがった新聞を見ていただき、児童たちが見つけた「秋」の風情をみなさんにおすそ分けできたらと思います。

 できあがった壁新聞の一例はこちら。
 
彦野周子(愛徳学園小学校教諭)(2021年10月26日)

[写真説明]新聞記事から見つけた「秋」の感想を書く児童

※「わたしの感想NIE」に児童のみなさんの感想を掲載しています。

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 「新聞コーナーできました。よろしくね」。尼崎市立立花南小学校の図書室には、入り口にそんな案内がある。室内には子どもたちが選んだ新聞記事の切り抜きが、お薦めの理由を書き添えてあちこちに貼られている。子どもたちの手で切り抜きをまとめたスクラップブックもあった。児童が新聞の面白さに触れ、他の児童に紹介し、社会への関心を高める―。図書室を拠点にNIE(教育に新聞を)活動の好循環を実現した、同校の取り組みを紹介したい。(兵庫県NIE推進協議会コーディネーター 石原丈知)

 同校は2021年度の日本新聞協会NIE実践指定校。全てのクラスで、図書の授業時間に記事紹介作りに取り組んでいる。

 子どもたちが新聞に興味を持つ活動を始めたのは、尼崎市の読書力向上事業で同校の図書室に勤務する阿部奈津子司書。新聞を配置しても、手に取る児童が少ない。読まれないままたまっていくだけではもったいない―。そんな思いが出発点になったという。

 まず、各学年の図書の授業で最初の時間に、その日の新聞の1面を紹介する。低学年の児童には子ども新聞を、高学年には一般紙を用いる。そして子どもたちに、自分の好きな記事を選び紹介してもらう。

 図書室に貼られた記事紹介を見ると、お薦め理由が学年ごとに異なり興味深い。例えば6年生は憲法記念日に掲載された、憲法9条への自衛隊明記をめぐる記事を取り上げ「6年生で憲法を勉強しました。読んでみてください」と薦めていた。一方、1年生は海の生きもののイラストを選んで「海の中がきれいだしかわいい」、また月の写真に「月がすごかった」と記していた。中には新聞広告を切り抜いていた子もいた。

 毎木曜2~3時間目の間の休み時間には、児童会役員5人が図書室に集まり、記事紹介を作りつつ、みんなの記事紹介をスクラップブックにとじる。「1・2年」「3・4年」「5・6年」と学年別に分かれたそれらは、いわば「みんなが好きな記事」集。ゆっくり眺めていると、1年生の児童がのぞきこんで「これ、僕の記事」と教えてくれた。

 児童会役員の川瀬心望(ここみ)さん(5年)は「低学年でも高学年でも共通で楽しめる記事を選んでいます。子ども新聞の工夫が楽しいと思いました」。中西祥千(さゆき)さん(同)は「新聞に載っているゲームや、自分が知らない生きものの記事を紹介します。知らないことが新聞で分かるのが楽しい」と笑顔で語る。

 実践代表者の山川和宏教諭は「最近は新聞を取っていない家庭も多いので、図書室をまず新聞に親しむ場所にしてもらった。これからは新聞紹介をさらに発展させた壁新聞作りや個人新聞作りに発展させていきたい」と話した。

[写真㊤]新聞に目を通し、みんなに紹介したい記事を選ぶ子どもたち=いずれも尼崎市三反田町2、立花南小学校

[写真㊦]児童が、自分の選んだ新聞記事を紹介するコーナー(画像の一部を加工しています)

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  小規模校・複数校でオンライン授業、小中高一貫校・他学年と学び合う機会に

 新聞を教材として活用するNIE(教育に新聞を)活動について、教員による自主的な研究グループが、兵庫県内に相次いで3つ誕生した。小規模校、小中高一貫教育を行う私立校など、学校の特性に合わせた実施計画を探り、より充実した内容を模索していく。

 神戸市北区の市立淡河(おうご)小学校で5月中旬、「NIEで小規模校を繋(つな)ぐ研究チーム」の初会合が開かれた。同区の有馬小学校からオンライン参加した教諭もおり、5人で意見を交換。但馬や淡路を含め、児童数の少ない県内の学校をつないでオンライン授業をする▽各校でふるさとを取材し、その成果を共同で1枚の新聞にまとめ、発表する―など、充実した授業に向けて案を出し合った。

 淡河小は児童数40人。児童数の少ない学校にとって複数校によるオンライン授業は、子どもたちが多様な意見を聞き、考えを深め合う貴重な機会になる。研究チーム世話人の藤岡絵美・淡河小教諭は「児童同士が刺激を受けながら、より主体的に自分の考えを表現し合える環境をつくりたい」と話す。

 高校、中学校、小学校、幼稚園を運営する愛徳学園(神戸市垂水区)でも、小中高校の教諭らによる「NIE研究会」が発足した。小学校から高校まで、NIEによる学びを継続発展させることを目指す。

 初会合には5人が参加し、「持続可能な開発目標(SDGs)」「マナー」「平和学習」など共通テーマを設けてNIE授業をする▽中高生が小学生に記事の内容を分かりやすく解説する▽学年別に取り組む内容を工夫する―などのアイデアが出た。同学園小の彦野周子教諭は「小中高全体で他学年と学び合う機会を設け、児童生徒が考えを深める機会にしたい」と語る。

 神戸山手女子中学高校(神戸市中央区)の近藤隆郎教諭(日本新聞協会NIEアドバイザー)を世話人とする「NIE学校間連携研究会」も立ち上がった。兵庫県NIE推進協議会(事務局・神戸新聞社内)を拠点に、複数校で共通テーマによるNIE活動を実施し、地域や校種をこえた連携を進めていく。

 県内にはこれまで、1991年4月に発足した明石市のNIE研究会と、昨年4月、特色ある取り組みに「NIEの実践」を掲げて開校した姫路市立豊富小中学校のNIE研究チームがあった。新たに3グループが誕生したことで、県内のNIE研究グループは5つに。さらに多様な展開が期待される。

三好 正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)(6月13日)

[写真㊤]NIEで小規模校を繋ぐ研究チーム」の初会合=5月18日、神戸市北区淡河町萩原、淡河小学校

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[写真㊨]小中高校を通じた新聞活用について話し合った、愛徳学園のNIE研究会=5月19日、神戸市垂水区歌敷山3、愛徳学園

 ※日本新聞協会NIEサイト・各地の教員研究組織で、兵庫県内5つのNIE研究グループを紹介しています。 

各地の教員研究組織

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 西宮市立浜脇中学校は2019年度に「NIEノート」の活動を始め、21年度からは全校生徒(約800人)に拡大し取り組んでいます。NIEノートとは、生徒各自が選んだ新聞記事を貼り付け、感想を書き込むノートです。取り上げる記事は、政治、経済、スポーツ、科学、宇宙、環境など自由で、それぞれが興味を持った分野です。

    生徒たちは毎週、記事を一つ選んでノートにまとめ、社会科の授業の冒頭に電子黒板上でプレゼンテーションします。20年度末に1人1台ずつ配布されたタブレットパソコンを活用する生徒も増えてきました。課題は週に記事一つを原則としていますが、自ら進んでたくさんの記事を調べたり、記事から発展させてより深い内容を調べたりする生徒も増えています。

 生徒が選ぶ記事には次のような傾向がみられます。

 全校生を通じて、コロナ禍の関連記事が多く選ばれています。「自分たちだけではなく、家族のためにも感染予防対策をしたい」との発表は、多くの生徒の思いでしょう。特に1年生は、コロナ禍の対策についての記事が目立ちました。

 2年生は、社会科で学習した、国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」に関連し、自然エネルギーや再生可能エネルギーの活用など「環境」をテーマにした発表をする生徒が増えています。「菅首相、2030年の温室効果ガス削減目標43%に」という記事では、「首相が大きな目標を立てるだけでは意味がなく、私たち一人一人が意識を高めて実際に行動していくことが大事」と発表していました。

 3年生は、「地域の神社に吹奏楽の石碑が建てられた」「『カブトムシが夜行性ではなかった』という小学生の研究がアメリカの学会で発表された」など、自らの実生活や関心事について多様な発表がみられます。

 特別支援学級では、「猫の多頭飼育問題」や「沖縄本土復帰49年続く基地負担」について、自分の興味のあるものを中心に調べています。

 今後も、多面的・多角的に物事を判断できる生徒を育成する環境をつくっていきたいと思います。生徒一人一人が社会全体や世界の動きに対し、興味や関心を高め、主体的に考える力を身につける取り組みとして、NIEノートを続けていきたいと考えています。

渋谷 仁崇(西宮市立浜脇中学校教諭/日本新聞協会NIEアドバイザー)(6月8日)

[写真説明]NIEノートの内容を発表する生徒

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 姫路市立豊富小中学校は特色ある取り組みの一つにNIEを掲げ、2020年4月、9年制の義務教育学校として開校しました。「新聞をつくるとつかう」をコンセプトに推進してきた1年間の中で大きな節目となったのが、児童生徒1人1アカウントの付与、そして、20年9月14日、児童生徒1人1台のタブレット型端末の整備が完了したことです。児童生徒がアクセスできる情報量が圧倒的に増えたことや、情報の編集・加工・発信・共有が手軽に行えるようになったことで、紙媒体の新聞との併用をいっそう意識するようになりました。

 新型コロナウイルス感染症対策として、兵庫県NIE推進協議会による記者派遣事業(出前授業)もすべてオンラインで実施。1回目(20年7月30日)は5年生3クラス103人を対象にして、新型コロナに関する記事をもとに「新聞の読み方」を学び、ワークショップも実施しました。大人数でも均質な授業を受けられ、プレゼンテーションソフトの情報を全員が共有している一体感もあり、オンライン授業の可能性を感じた時間でした。

 2回目(21年2月5日)、7~8年生176人を対象に行った「阪神・淡路大震災」をテーマにした授業でも、同様のスタイルで実施しました。オンデマンド(録画方式)では実現できない質疑応答やワークショップなど双方向性も高く、記者派遣の新しい形を提案することができました。

 これらの成果を反映し、3回目(21年3月10日)は6年生88人が「オンラインまわしよみ新聞」にチャレンジしました。まわしよみ新聞は、それぞれが関心を持った新聞記事を題材に意見交換し、オリジナルの紙面として再構成する手法です。児童は別のクラスの児童と3人一組になり、タブレット型端末を使ってクラウド上でやりとりを重ねました。

 単に選んだ記事を貼り付けるだけではなく、紙面で最も大きなスペースを割くトップ原稿をクラウド上での投票や話し合いで決め、記事の配置も同様に話し合いながら構成していきました。

 ICTを活用し、会話しないで対話する――。この手法は21年1月26日、7年生を対象に実施した教育関係者向けの公開授業「オンライン多紙読み比べ」がヒントになりました。緊急事態宣言下ということもあり、対面でのグループ活動にも制限がありました。そこで、同じ教室の離れた場所にいるメンバーと複数紙を読み比べた意見や感想を交流。音声言語でのやり取りがほとんどない異色の授業公開でしたが、日本各地からオンラインで参加いただいた皆さまから「学びに向かう姿がすばらしい」「新しい形でのチャレンジが大変参考になった」などうれしい感想をいただき、次へのさらなる一歩につながりました。

 私たちの挑戦は、兵庫県NIE推進協議会のご支援、ご助言があってこそ実現しました。今後も、同協議会の秋田久子会長の「生徒がタブレットを通じて意見交換するオンライン授業の長所は『言語化の必然』です。生徒は自分の考えを言葉にする必要があります」(同推進協議会サイト巻頭コラム)という言葉を胸に、これからもテクノロジーが拓(ひら)く新しいNIEの形を模索していきます。

井上幸史(姫路市立豊富小中学校教頭/日本新聞協会NIEアドバイザー)(5月8日)

[写真㊤]当日朝刊から新型コロナの関連記事を探す児童=2020年7月30日、姫路市立豊富小中学校                                             

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[写真㊨]クラウド上で意見交換しながら紙面を作る児童=2021年3月10日、姫路市立豊富小中学校

20年7月31日付神戸新聞朝刊姫路版の記事

21年2月6日付神戸新聞朝刊姫路版の記事

21年3月12日付神戸新聞朝刊姫路版の記事

21年1月27日付読売新聞朝刊姫路版、28日付神戸新聞朝刊姫路版の記事

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    9年制の義務教育学校・姫路市立豊富小中学校は、隣接する市立豊富小・豊富中が一つになって、2020年4月1日に開校しました。特色ある取り組みとして「NIE推進」を掲げています。コンセプトは、新聞を「つかう」と「つくる」活動を通した情報活用能力の育成で、体験活動やICTの活用、調べ学習と連動した活動など、工夫しながら「つかう」「つくる」活動を進めています。

    19年度、小中両校とも日本新聞協会のNIE実践指定校となり、実践を積み重ねてきました。その体験をベースに、「つかう」活動では、記事の活用を中心に朝の全校読み聞かせ、コラムの書き写し、まわしよみ新聞などの活動のほか、防災スリッパづくりなど、新聞そのものを素材にした取り組みも行いました。

   「つくる」活動では、教科や総合的な学習・行事・体験活動のまとめとして、新聞づくりを実施。5~9年生(中学3年生)では、神戸新聞社のクラウド型アプリ「ことまど」を使った新聞づくりにも取り組みました。

 前期課程(小学校)には新聞委員会があり、19年度に引き続き、校内のニュースを取材して毎月、壁新聞を発行。委員会の児童たちからは「みんなが読んでいる姿をみるとうれしい」「『次はどんな記事を書こうかな』と考えながら、記事を探している」などの感想が聞かれ、「情報の作り手」としての意識の芽生えを感じます。

 さらに、学校図書館や校内の掲示板に新聞コーナーを設けるなど、日常的に新聞に触れて感じることのできる場づくりも行っています。

 「新聞のある風景」が根付きつつある本校ですが、教員たちが、NIEに関する特別な会議や研修を行っているわけではありません。一人一人が新聞の存在を少しだけ意識し、教育活動の中に新聞の特性を自然に溶け込ませているイメージです。

 以前から校種を超えた教育研究が活発で、新しいことにトライする雰囲気がNIE推進につながっているように感じます。

 新型コロナ感染拡大防止の休校措置を経て、6月15日から通常の教育活動が再開しました。後期課程(中学校)では、毎日届く新聞から生徒がお勧めの記事を順に紹介する取り組みもスタートしています。

 新しい生活におけるNIE実践に向け、これからも「新聞のある風景」をみんなで創っていきます。

井上幸史(姫路市立豊富小中学校教頭)(7月6日)

[写真説明]お勧めの記事を選び、発表内容を考える9年生

 ※日本新聞協会NIEサイト・各地の教員研究組織で、豊富小中学校NIE研究チームを紹介しています。 

各地の教員研究組織

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  西宮市立浜脇中学校では6月1日から、クラスを半分に分けての分散登校を実施し、15日からは通常の授業を再開しています。新型コロナウイルス感染拡大防止対策の休校期間中は、教師がポスティングで課題を配布したり、学校ホームページに授業の動画を配信したりと対応してきました。

 授業では、社会科の課題として、「日本と外国を比べてみよう~新型コロナウイルスの対応~」として、生徒各自が「この国のこんな対応がいいな」と思うものをリポートにして提出し、授業で意見交換しました。

 道徳の授業では「正しく知り、正しく恐れる新型コロナウイルス」をテーマに新聞記事を活用し、生徒からは「飛沫(ひまつ)感染」「フェイスシールド」「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」というキーワードがたくさん出てきました。

  「コロナ差別」についても考えました。生徒からは「新聞記事で、医療従事者に対する差別や、親が医療関係の仕事をしているから保育所が受け入れてくれないことなどを知った」「自分の知り合いが、体調が悪くて発熱し回復した後に、周囲の人が何か避けているように感じたことがあった」などの声が上がり、新型コロナ禍を身近に感じているようでした。

  さらに、「『コロナちゃうん?』など何気ない言葉や行動が、差別につながり、相手に大きなダメージを与える」「新型コロナウイルスは世界からなくならないと思うから、正しく理解したい。ネットでは偽情報もあるから、新聞やニュースを見て、正しく行動したい」など、感想も出されました。

  本校では、今後も新聞記事を生徒各自にスクラップさせ、まとめ、感想を書く「NIEノート」の取り組みを続け、社会科の授業で交流させることを継続し、社会的事象への興味や関心・理解を深めていきたいと思います。

渋谷 仁崇(西宮市立浜脇中学校教諭)(6月29日)

[写真説明]分散登校時の道徳の授業。1年生が新型コロナ禍について考えた

    新型コロナウイルスの影響で突然、臨時休校要請が発表されたのが、3学期の期末テスト最終日の前日夜。いつ再開できるか見通せない臨時休校が始まり、結果的に3カ月に及びました。その間、兵庫教育大学附属中学校では、生徒の「学びの保障」をどう確保するか、全職員が何度も話し合い、できることから行ってきました。

    本校では臨時休校中、各教科の担当教員が課題プリントなどを作って生徒に配ってきました。新型コロナと同様、100年前、世界的に大流行した「スペイン風邪」について報じた朝日新聞の記事を引用、世界全体および日本で多数の人が亡くなったことや、当時の政府が呼び掛けた対策が「マスク着用」など、今と変わらないことなどを、3年生向けの通信で紹介したケースもありました。

    その頃、全国各地の先進的な学校では、双方向のオンライン会議形式の授業や、授業の動画を教師自ら制作しネット配信しているといったニュースが新聞などで取り上げられていました。本校でもそのような取り組みができないか教員間で話し合いを進め、20代後半~30代前半の教師を中心にプロジェクトチームを立ち上げ、動画配信やオンライン授業の実施に向け、打ち合わせや研修を行ってきました。

    そして、マイクロソフト社のOffice365の中にある「Sway」(プレゼンテーションソフト)と、「Forms」(アンケート、問題集計ソフト)」を活用することを決めました。「臨時休校に伴う特設ホームページ」を開設し、4月20日からは教科ごとに課題やプリント、問題、オリエンテーション動画を載せた「非同期型」授業を試行しました。この中には、新型コロナで亡くなった1千人の名前や享年、一言紹介を載せた、ニューヨーク・タイムズ紙の紙面を紹介したケースもありました。

 「Sway」で作成したホームページからプリントや問題をダウンロードでき、「Forms」では出席を確認したり、体調管理調査を行ったりすることもでき、体温が高かった生徒にすぐ連絡する対応もとりました。さらに、5月11日からは「非同期型」ですが、全教科で週1回以上の動画を配信し、「特設ホームページ」を使いオンライン授業を開始しました。

    数学科の動画は、教師2人が教師役・生徒役として登場し、質問に答えながら進めたり、これを見た生徒からの回答に次の授業で答えたりするなど、双方向を意識した内容です。体育科の動画は、体育科教員が生徒たちの運動不足解消に役立つダンスなどを披露したりしていました。それぞれの動画へのアクセス数を見ると、多くの生徒が、本校教員が作成した動画を見て学習を進めていることが分かりました。質問したいときは、「Forms」を利用して行っていました。

   学校再開後もしばらくは分散登校のため、引き続き、オンライン授業を行っている教科もあります。臨時休校で登校できない生徒のために、われわれ教員は何ができるのか―。苦手なことにも果敢に挑戦し、各教員が試行錯誤しながら取り組んでいます。なお、ネット環境により、十分に動画配信やオンライン授業を見ることができない生徒には学校再開後、放課後の時間を使って学校で見られるようにしています。今後、ウイルスの流行の第2波、第3波に備え、「非同期型」と「同期型」の融合も視野に、オンライン授業の深化・充実に取り組んでいきます。

    NIEについては現在、新聞3紙の提供を受けています。当面は「三密」とならないよう配慮しながら、廊下や図書室に閲覧場所を設置して、生徒がいつでも新聞を手に取って読めるようにしていきます。そして、生徒一人一人が新型コロナなどに関心を持ち続け、多面的・多角的に考えることができるようになってほしいと考えています。

大山 隆史(兵庫教育大学附属中学校校長)(6月19日)

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 当校では2020年3月から新型コロナウィルス感染拡大防止のための休校が続いていましたが、緊急事態宣言の解除を受け、5月下旬から分散登校を始め、6月1日から学校を再開しました。

 愛徳学園中・高等学校では臨時休校になった3月上旬から、これから受験期に入る高校2年生(現・3年生)を対象に、普段使っている授業支援アプリ「ロイロノート」(タブレット端末)を使って遠隔授業ができないか検討を始めました。日頃は対面授業の中で、文房具の一つとして使っている「ロイロノート」ですが、対面ではない授業は初めてで、どう使えばよいか各教員で試行錯誤しました。その結果、ロイロノートのカード(スライドのようなもの)に文字や図、写真、ときには動画を入れ、音声も載せて、自宅にいる生徒と送受信し、添削や解説を行うことで授業ができると考えました。

 3月下旬からオンライン授業(名称・『愛ちゃんねる』)として、高校3年生と2年生に講習を実施しました。講習では、生徒の「学びたい」という気持ちが強く感じられ、「伝わる」「できる」という手ごたえを感じ、大いに励まされました。4月に入っても休校が続いたため、中1生を除く全学年を対象に科目を絞ってのオンライン授業と、課題の郵送などで授業を行いました。さらに、5月11日からは全教科で正規の授業としてオンライン授業を行いました。

 そうした中、20年度からNIE実践を強化することになり、「新聞のすすめ」として、高校2年生と3年生を対象にした選択国語表現のオンライン授業で「新聞スクラップ」に取り組みました。

 「新聞スクラップ」は過去の授業でも行ったことがありますが、自分の興味のあることや進路に応じてA4サイズのノートに新聞記事を貼り、①記事のあらまし②問題点③その背景④自分の考えーを記入し、週に一度、自分のスクラップ帳をロイロノートで写真に撮り、送信し、教員がコメントを付けて返却するという取り組みです。

 離れていてもやり取りはスムーズで、教員からも話題を広げたり、他の記事の紹介などのコメントを付けたりしています。また、生徒がスクラップした新聞記事をテストの範囲にした漢字テストも週に一度行い、新聞を読む、新聞に興味・関心を持つということにつなげています。これから「コロナ後について考える」という小論文に取り組む予定で、さらに新聞記事の利活用を考えているところです。

 現在、学校も再開し、対面授業を行っています。オンライン授業は準備に時間がかかることや、ときに通信環境が不安定になることなど大変な面もありましたが、教員の「伝えたい」という思いを形にでき、生徒も後から繰り返し見たりするなど、オンラインならではの良さや可能性を実感できました。これからの授業の中で、対面とオンラインの良さを生かしたハイブリッドな授業で、生徒一人一人の深い学びを実現していきたいと思っています。

米田 俊彦(愛徳学園中・高等学校教諭)(6月8日)

[写真説明]生徒が提出したスクラップ帳。教員がコメントを書いて返信する

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     新型コロナウイルスの感染拡大で休校が長引き、子どもたちの学力向上をどう図ればいいか―。家庭学習に頼ることが多く、各家庭の協力にとても感謝しています。そして、学校は何ができるのかを日々模索してきました。

    伊丹市立天神川小学校が4~5月の休校中に行った、各家庭への課題プリントのポスティングは計5回に及びました。アナログな作業で、たくさんのプリントを印刷し封筒に入れ、子どもたちの顔を思い浮かべながら、こんなにも回ったことがないというくらい一軒一軒を回りました。

 算数や国語の宿題だけでなく、何か強く興味をもてる課題はないかと模索しているとき、読売新聞ワークシート(小学生版)が目に留まりました。各新聞社が作成しているワークシートは家庭での学習にとても役立つと感じています。読売新聞東京本社の教育ネットワーク事務局に問い合わせたところ、ワークシートを印刷して配布することを快諾していただきました。

 使用させてもらったのは、5月13日付の「明石・天文科学館 紙芝居や体操配信」です。明石市立天文科学館が、同館の人気キャラクター「軌道星隊シゴセンジャー」による紙芝居や簡単にできる体操の動画「おうちで天文科学館」をつくり、投稿サイト「YouTube」で配信しているという内容で、兵庫県の話題だったのも大きな理由です。

   ワークシートの「あなたは、手を洗っていますか」という質問に、ある子どもは「ちゃんとしっかり20秒洗っています」と回答していました。

 新聞には、リアルタイムで必要な情報が掲載されていることに気づいてほしい。こんな時期でも明るいニュースも載っていることも知ってほしいー。そんな思いがありました。

 まだまだ新型コロナウイルスの感染は心配ですが、「みんな待っているよ」を合言葉に、つながりを大切にした取り組みを進めています。NIEについても子どもたちの笑顔につながる実践を推進していきます。

竹安 雄一(伊丹市立天神川小学校教諭)(5月29日)

[写真説明]児童が回答を書き込んだ新聞のワークシート

社説から学ぶ、説得力のある文章とは?

~「意見」に着目して、社説を要約しよう~

1. はじめに

 聴覚に障害がある子どもは耳から入る情報が限られるため、言語力を高めるための支援が重要になる。近年は小論文やリポートなど、自分の意見を論理的に述べる力(論述力)がますます求められるようになり、より丁寧な指導が必要になってきた。

 論述を苦手とする生徒の文章は、主張の羅列に終始したり、あるいは主張が見えなかったりして、事実と意見がバランスよく構成できていないことが多い。そういう生徒に、社説の要約を勧めてきた。

 社説は、今、社会で生じている問題を解説し、意見を述べたものである。事実をもとに論述するという点で小論文と重なることが多い。視野を広げながら、論述力を高めるには、絶好の教材といえる。

 一方、社説は難しいというイメージをもっている生徒もいる。実践にあたっては、生徒の興味・関心が強い記事を用い、論理構成をつかみやすくするために「意見」の部分にマーキングさせるなど留意した。

2. ねらい

・事実と意見を区別し、要約することができる。

・論理の構成や展開をとらえながら読み取る。

3. 実 践

(1) 対象 高等部の希望者

(2) 時間 休憩時間や家庭学習

(3) 方法

社説のタイトル一覧から、読みたい社説を3つ選ぶ。ワークシート1

意見の部分に、蛍光ペンでマーキングする。(事実と意見を区別しながら読む)

意見に注目して段落に分ける。1つの段落を1行で要約する。(要旨をつかむ)

各段落の要約をもとに全体を150字程度で要約する。(俯瞰的にとらえる)

(4) 留意したこと

・生徒の興味・関心が高い記事を選ぶ。(アニメーション、オリンピックなど)

・事実と意見が区別しにくい文は、別の色でマーキングさせる。

事実と意見を区別するためのワークシート2

・できれば漢字に振り仮名をつける。

4.結 果

 (1) 事実と意見の区別について

  事実と意見を明確に区別できない場合がある。たとえば、「~という指摘もある」という文は、指摘された事実を提示しつつ意見を示唆している可能性があるが、今回は、事実として扱った。その結果、実施した生徒が抽出した意見は、概ね一致した。

 (2) 生徒の要約文

 1行要約では、段落の中心文を抜き出す程度で良いと考えていたが、生徒は短い文章にするために言葉に選び変えたり、語順を入れ替えたりと工夫していた。全文の要約(150字)では、1行要約を柱にしつつ、何度も本文に立ち戻り、必要と思われる言葉を追加していた。


    Aさんの事例〉

150字要約「京都アニメ放火/若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019,7.20)

・どんな理由であれ、絶対に許せない暴力行為だ。

・「地方発」モデルを築いてきた人々の夢を壊した犯行である。

・ガソリンの購入時の規制策を検討する必要がある。

・必ず素晴らしい作品づくりができるように支えたい。


段落の要約「京都アニメ放火/若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019,7.20)

若者らの未来が奪われた京都アニメ放火。夢を壊した犯行で、絶対に許せない暴力行為だ。ガソリンを悪用した犯罪は繰り返されてきた。凶器となる危険性を考えれば、購入時の規制策を検討する必要があるのではないか。平成以降、最悪の惨事の衝撃は世界にも広がった。素晴らしい作品作りができるよう、復活を支えていきたい。


 冗長さはあるが、1つの提案を挟み、生徒なりに意見をよく表現できたように思う。なお、Aさんが選んだ社説は、「アニメ会社放火 夢描く若者の未来絶たれた」(新潟日報,2019.7.20)、「『京アニ』惨事 奪われた才能を悼む」(中日新聞,2019.7.20)、そして、「京都アニメ放火 若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019.7.20)の3本であった。見出しに含まれた「夢」「才能」「未来」という言葉にひかれたという。

 (3) 生徒たちの感想

 生徒たちの感想は肯定的だった。感想は概ね次の5点であった。


・新聞社によって表現方法だけでなく、重視している論点が違うことがわかった。

・社説は事実を述べたうえで意見を短く述べているとわかった。

・語彙力が向上すると思った。

・考え方や意見を述べる力が鍛えられると思った。

・要約するのにすごく時間がかかったが、とても良い経験になった。


 

5.成果と課題

 高校生の自律的な学習を促すには、「学びの面白さ」、「自分の力が向上した」、「自分の見方・考え方が広がった」、「人の役に立つ」などを実感することが重要だといわれる。今回の実践で、そういった感想が得られ、「社説に込められた力」を感じている。

 この実践前に生徒B君が書いた自己アピール文は「やる気と主張」が熱くつづられた文章だった。実践後、彼は自主的にアピール文を書き直してきた。文章は、具体的事実が加わっていて、説得力が格段に高まっていた。客観的な事実を入れる大切さを理解したようだ。

 社説には難しい表現(たとえば「憤りを禁じ得ない」など)がある。それが生徒のモチベーションを低下させないかと憂慮していたが、参加した生徒の多くは「語彙が増える」と肯定的に答えた。たいへんうれしいことだと思う。今回の実践を機に、自主的に生徒が毎日できる方法へとつなげたい。

6.おわりに

 私自身も社説の読み比べを続けている。

 過日、新型肺炎による「小・中学校の一斉休校」について、各紙が社説で取り上げ、多くが保護者や子どもへの影響を指摘した。一方で、各紙の特徴もうかがえた。

 秋田魁新報は「新型肺炎、臨時休校 感染拡大防止へ正念場」(2020.2.28)と感染防止を呼びかけ、北國新聞は「臨時休校の波紋 全国一律の必要性あるか」(2020.2.29)は一律実施への疑問を表明し、神戸新聞は「政府の肺炎対応 丸投げの前に責務果たせ」(2020.2.29)と政策の進め方への疑問を投げかけた。後日、政府が具体的に動き始めた様子をみていると、社説を参考にしたのかと思えるほどである。まさに新聞の読み比べは、社会や政治への関心を高め、視野を広げ、自らの考えを深めるための教材だと思う。

斎藤 治(神戸聴覚特別支援学校教諭)(3月31日)

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 2020年4月開校予定の姫路市立豊富小中学校(同市豊富町)が、将来への指針となる特色ある取り組みに「NIE(教育に新聞を)の実践」を掲げている。同小中学校は、隣接する市立豊富小・豊富中が一つになる、小中一貫の義務教育学校。助走期間の19年度は、両校とも日本新聞協会から実践校の指定を受け、新聞記事を基に環境問題などの調べ学習をしたり、修学旅行など体験活動を新聞にまとめたりしたほか、「朝の時間」には一斉放送で記事の読み聞かせも。20年度に向け、両校の教員によるNIE研究も始めている。  (田中茂典・兵庫県NIE推進協議会コーディネーター)

 「NIE活動の実践」を掲げるのは、「新聞を『つかう』『つくる』活動を通し情報活用能力を育みたい」(阪本靖・豊富小学校長)「『調べる力』を育てる柱に新聞活用を位置づけている」(山下雅道・豊富中学校長)からだが、何より両校には、NIEに前向きな教諭が多い印象がある。今年8月、宇都宮市であった日本新聞協会主催のNIE全国大会や、近畿NIEフォーラム(大阪市)に参加した教諭たちが、紹介された取り組みを授業に取り入れている。

 豊富中の井上佳尚教諭は、NIE全国大会で、ことばの貯金箱「夢」プロジェクト代表・渡辺裕子さんが実践する「つぶやきNEWSっす」を知ったという。これは数人ずつで班を作り、各自が気になった記事を切り抜いて紹介。模造紙に貼り付け、余白にみんなで共感や疑問など「つぶやき」を書き込む。そして読み返し、考えを班内で発表する―という内容。井上教諭は9月、尼崎市立大庄北中学校であったNIE公開授業も参考に、学校司書とこうした授業を行ったという。  豊富中に取材に訪れた日、井上教諭の指導で、小学校の教員ら5人が「つぶやきNEWSっす」に取り組んだ。兵庫県稲美町と熊本県益城町の災害協定の記事を選んだ花折了介教諭は、「各自が選んだ記事について考えを話したり聞いたりすることで、自分の考えを深めることができる」と述べた。

 こうした活動は、校内にとどまらない。両校は9月、地元公民館と共同で地域住民を対象に、「人権」をテーマに新聞を使ったワークショップ「まわしよみ新聞」を開いた。豊富小の井上幸史教頭は「新聞は社会への扉。楽しみながら、地域も巻き込んだNIEを模索していきたい」と話している。 

[写真説明]「つぶやきNEWSっす」のワークショップ。気になる記事を選ぶ豊富小教諭ら(写真左)、新聞を使って調べ学習しやすいよう専用コーナーを設けた中学校の図書室。来春から小学生も利用できる(同右)=いずれも姫路市立豊富中学校 

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    日本新聞協会が任命するNIEアドバイザーは、地域のNIE普及・発展のリード役だ。兵庫では現在、NIEの実践経験豊かな10人の先生たちに務めてもらっている。アドバイザーによる最近のNIE研究活動を紹介する。

 明石市のNIE研究会が6月24日、同市二見町の二見西小学校で、2019年度の第1回研修会を開いた。この日は、若手教諭4人とベテラン教諭1人の計5人が参加。同校の若生佳久主幹教諭が講師となり、前半はNIEや新聞活用法について説明。後半は新聞紙面から「文字数の多い熟語」を探すなどのワークショップを行った。若生教諭は長年、新聞を授業に活用した指導を手がけており、日本新聞協会NIEアドバイザーを務めている。研究会は同校のフレッシュ研修会と兼ねて開催された。

 研究会の19年度のテーマは「情報化社会とNIE~学校現場での新聞活用の広がりをめざして~」。若生教諭は、新聞には「作る」「読む」「資料として使う」「活用する」「新聞の仕組みを知る」などの活用法があることを紹介した。

 ワークショップでは、これまでの授業で利用してきた自作のワークシートを紹介。「(文字数の多い)熟語(複合語)を探そう」では、普段新聞を読まない児童も「熟語探し」に懸命になり、自然と記事を読み進めていくようになることや、10文字以上の言葉を見つけたときには教室から歓声があがった経験を話した。参加した教諭が実際に取り組んだ中では17文字が最高だった。

 切り離した4コマ漫画の順番を決めるワークシートでは、二通りの並べ方が見つかるなど、話を組み立てたり漫画をもとにお話を作らせたりすることが、文章表現力の学習にも有益であると紹介した。

 参加した教諭は「NIE活動の面白さが分かった。国語や社会だけでなくいろいろな教科で活用できる可能性にも気づいた。早速授業で熟語探しをやってみます」と話していた。

田中 茂典(兵庫県NIE推進協コーディネーター)(7月30日)

[写真説明]紙面から文字数の多い熟語を探す教諭たち

 ※日本新聞協会NIEサイト・各地の教員研究組織で、明石市のNIE研究会を紹介しています。 

各地の教員研究組織

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 企業の経営陣にインタビューし、新聞を作る授業に、神戸市北区の兵庫県立神戸鈴蘭台高校が取り組んでいる。生徒たちは、社長らの経営理念や本音を引き出すのに悪戦苦闘。「聞く力」を培う格好の学習となっている。

 同校は日本新聞協会のNIE実践校指定校。2年生の総合的な学習の時間に、「私たちの街・神戸について記事を書いてみよう」という講座を設け、年間で活動している。

 今回、取材対象に選んだのが、神戸や姫路の会社社長や役員。生徒4~5人のグループでインタビューをし、記事をまとめる。5月初め、兵庫県NIE推進協議会の三好正文事務局長からインタビューの手法やポイントを学び、準備を進めてきた。
 9月27日、会社社長ら6人が学校を訪れた。生徒らは緊張した表情でインタビュー。「どんな高校生活を送っていたのか」「仕事で大切にしていることは何か」など、事前に用意した質問を次々とぶつけた。
 西村屋フーズコムの西村勇人取締役は経営方針を問われ、「客から応援される企業であるために当たり前のことを誠実にやっていく」と答えた。レストランなどを運営するティーエスインターナショナルの生嶋孝司マーケティング&セールスゼネラルマネージャーは、社員研修の意味合いなどを説明していた。
 雰囲気は徐々になごみ、仕事の話だけでなく、自分が進路選択に悩んだ経験や部活動に打ち込んだこと、恋愛談まで飛びだした。
 終了後、社長らからは「楽しかった」「高校生の興味の方向を知ることができた」などの声が上がった。一方で、「シャイな生徒が多かった。高校生なんだからもっと何でも聞いて」と食品卸泉平(いずへい)の泉周作社長がアドバイス。珍味メーカー伍魚福の山中勧社長は「今日出会った高校生たちに神戸で働いてほしい」との願いを語った。
 2年の岸崎泰成さんは「『お客さんや地域の方、従業員とその家族に感謝される会社にしたい』という言葉が心に残った」と話す。勝占(かつら)美穂さんは「今回、いろんな人の話を聞くことで多方面の情報を得ることができた」と振り返った。
 今後、インタビューの内容を新聞にまとめ、来年2月7日には同校内で発表会を開く予定。それに先立ち2月1日に、神戸市中央区のよみうり神戸ホールであるNIE実践発表会(兵庫県NIE推進協議会主催)でも発表する。

田中茂典(兵庫県NIE推進協コーディネーター)(10月28日)

[写真説明]企業の社長らにインタビューする神戸鈴蘭台高校の生徒ら=神戸市北区山田町

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■採用された投書を読む
 読者の心に届く新聞投書について考える授業が6月13日、姫路市本町の白鷺小中学校で開かれました。小学6年生34人が参加し、昨年、新聞の子ども向け投書コーナーに採用された同校児童の投書「犬のふんは飼い主が持ち帰るべき」と「小さなことでも毎日チェレンジすることが大切」を、8班に分かれて読み比べました。
「新聞の投書を読み比べよう」=「東京書籍」小学6年=を学習するにあたって、実際に投書を読んだことのある児童が40%、投書をしたことがある児童が0%という実態の中で、いかに児童が探究心を持って授業に参加できるかを考えました。
そこで、18年度の6年生が実際に投書し掲載された作品を活用することで、投書を身近に感じ、意欲的に投書の工夫を見つけようとすることができたと思います。
■意見を分類して黒板に貼る
個人思考では見つけにくい児童も、グループで友だちの意見を聞くことで新しい考えを共有しました。色分けした黒板の表に、ホワイトボードに書いた意見を分類して貼ることで、「序論・本論・結論で構成する」「体験に基づいた意見を述べる」「予想される反対意見に対する反論を書く」など大切な点を整理し、理解することができていたようです=写真。
さらに、投書先である神戸新聞社の記者さんから、「読者が『おやっ』『へぇ~』『なるほど』と思う意見を書くこと」や、投書を書く時のテーマの見つけ方も教えていただき、自分も投書をしたいという意欲を高める授業となりました。
吉田 裕美(姫路市立白鷺小中学校教諭/NIEアドバイザー)(7月31日)