姫路市立豊富小中学校は特色ある取り組みの一つにNIEを掲げ、2020年4月、9年制の義務教育学校として開校しました。「新聞をつくるとつかう」をコンセプトに推進してきた1年間の中で大きな節目となったのが、児童生徒1人1アカウントの付与、そして、20年9月14日、児童生徒1人1台のタブレット型端末の整備が完了したことです。児童生徒がアクセスできる情報量が圧倒的に増えたことや、情報の編集・加工・発信・共有が手軽に行えるようになったことで、紙媒体の新聞との併用をいっそう意識するようになりました。
新型コロナウイルス感染症対策として、兵庫県NIE推進協議会による記者派遣事業(出前授業)もすべてオンラインで実施。1回目(20年7月30日)は5年生3クラス103人を対象にして、新型コロナに関する記事をもとに「新聞の読み方」を学び、ワークショップも実施しました。大人数でも均質な授業を受けられ、プレゼンテーションソフトの情報を全員が共有している一体感もあり、オンライン授業の可能性を感じた時間でした。
2回目(21年2月5日)、7~8年生176人を対象に行った「阪神・淡路大震災」をテーマにした授業でも、同様のスタイルで実施しました。オンデマンド(録画方式)では実現できない質疑応答やワークショップなど双方向性も高く、記者派遣の新しい形を提案することができました。
これらの成果を反映し、3回目(21年3月10日)は6年生88人が「オンラインまわしよみ新聞」にチャレンジしました。まわしよみ新聞は、それぞれが関心を持った新聞記事を題材に意見交換し、オリジナルの紙面として再構成する手法です。児童は別のクラスの児童と3人一組になり、タブレット型端末を使ってクラウド上でやりとりを重ねました。
単に選んだ記事を貼り付けるだけではなく、紙面で最も大きなスペースを割くトップ原稿をクラウド上での投票や話し合いで決め、記事の配置も同様に話し合いながら構成していきました。
ICTを活用し、会話しないで対話する――。この手法は21年1月26日、7年生を対象に実施した教育関係者向けの公開授業「オンライン多紙読み比べ」がヒントになりました。緊急事態宣言下ということもあり、対面でのグループ活動にも制限がありました。そこで、同じ教室の離れた場所にいるメンバーと複数紙を読み比べた意見や感想を交流。音声言語でのやり取りがほとんどない異色の授業公開でしたが、日本各地からオンラインで参加いただいた皆さまから「学びに向かう姿がすばらしい」「新しい形でのチャレンジが大変参考になった」などうれしい感想をいただき、次へのさらなる一歩につながりました。
私たちの挑戦は、兵庫県NIE推進協議会のご支援、ご助言があってこそ実現しました。今後も、同協議会の秋田久子会長の「生徒がタブレットを通じて意見交換するオンライン授業の長所は『言語化の必然』です。生徒は自分の考えを言葉にする必要があります」(同推進協議会サイト巻頭コラム)という言葉を胸に、これからもテクノロジーが拓(ひら)く新しいNIEの形を模索していきます。
井上幸史(姫路市立豊富小中学校教頭/日本新聞協会NIEアドバイザー)(5月8日)
[写真㊤]当日朝刊から新型コロナの関連記事を探す児童=2020年7月30日、姫路市立豊富小中学校
[写真㊨]クラウド上で意見交換しながら紙面を作る児童=2021年3月10日、姫路市立豊富小中学校