会長コラム

新聞読み比べの意義 ~情報を得るということ~学生との対話から

兵庫県NIE推進協議会会長 秋田久子

私は母校で国語科教育法を教えています。中学・高校の国語の先生を目指す後輩たちです。

厚みのある授業づくりには幅広い知識が必要です。「どうしたら知識が身につきますか」と学生から質問されました。そこで、毎日、新聞に目を通すよう勧めました。朝刊1部で新書1冊分よと。そうしましたら、「新聞ですかぁ。新聞は偏向してるって言いますけど」といいます。「それはあなたのお考え?」。ややあって、学生は小さくかぶりを振りました。

50年近く前の父の言葉が甦りました。

「新聞も商売じゃ。それぞれの立場からの情報やからな、判断は自分でな」

大学生の頃でした。父に呼ばれました。部屋に行くと床一面に新聞が広がっています。「見てみ」。目新しいたくさんの新聞の中に見慣れた新聞も交じっています。促されるままに目を通し始めました。

とんでもない事件を見つけました。先生が学校に閉じ込められて暴行を受けたと書いてあります。他の新聞には見当たりません。

「お父さん、びっくりするような事件が載ってるけど、ほかの新聞には載ってへん。これ本当のこと?」

この時の父の返事が上記の言葉です。

父は、諭すように言いました。商売は信用が第一。どの業界でも信用にかけてそれぞれの商品を出す。新聞は情報が商品や。そやからな、いろんな新聞社が情報を出してる。当然、それぞれの立ち位置で解釈も提示の仕方も異なる。読み比べてな、自分の判断を持たないかんぞ。面倒やけどな。その面倒がなくなったら、世の中もっと面倒なことになるんやで。

学生に、私の体験と父の言葉を伝えました。そして、今の私の考え方も伝えました。

世の中も人も多面体、受け手の私たちも多面体だから、そういう意味では光の当て方によって「偏向」は起こるもの。むしろ避けるべきは知らないこと、知ろうとしないことではないかと思う。「国語科教育法」の目的は日本語で考え表現する授業を展開できる力をつけることだ。先生が提供する関連知識の厚みが読解の深さに直結する。だから、私たち先生がまずさまざまな情報に触れて考える習慣をもちたいと考えている...。

学生は「確かに」とうなずいてくれました。「関連知識がいろいろあったら授業がおもしろくなりますよね。そういえば、新聞の読み比べも調べ学習に使えるかもしれないし」

令和3年2月22日

お届けします!児童生徒の皆さんの声 ~「わたしの感想NIE」~

兵庫県NIE推進協議会会長 秋田久子

 NIEを経験した児童生徒の皆さんの声を、そのまま、できるだけたくさん、ご紹介するコーナーを設けました。

 NIEのもう一つの目的は「伝える力」を伸ばすことです。

 児童・生徒の皆さんの思いや考えを伝える場として、また、学校のNIE活動の実際を伝える場としてご活用ください。

  できましたら、どなたさまでも、お読みになったご感想を学校へ、また私どもNIE事務局へお伝えいただければうれしゅうございます。

令和2年9月1日

 

提案! 新聞で ~ 夢を力に育てる ~

兵庫県NIE推進協議会会長 秋田久子

 短い夏休み、いかがお過ごしでしょうか。

子どもたちの学びの遅れを取り戻そうと、先生方が工夫を凝らしておられます。もうしばらくして環境が整えば、教室でも一気にデジタル化が進むでしょう。

教室といえば、黒板です。黒板が使われ始めて約150年。その前の寺子屋時代の教授技術に、子ども側からの視点で字を書いて見せるというのがありました。授業はすべて個別指導で、対面した状態で字を正確に書いて見せる(しかも筆で!)のが寺子屋の先生の技量の見せ所です。逆さで字を書くのがうまい先生の寺子屋は繁盛したそうです。

タブレットも個別指導に適しています。黒板とタブレット、一斉授業と個別授業の長所をうまく組み合わせて、学びを一層楽しいものにしようと試行錯誤が始まっています。楽しみです。

さて、学びの方法がカスタマイズされ個々人の適性・長所がくっきりしてくると、学びの目的が一層意識されるようになると思います。「何のために」のない強制は意欲をそぎます。自我が目覚めるとともに、強制は力を失い、自分の学びの目的=私の「夢」が重みを増してきます。夢は、努力できる力を生み出します。

漠然とした「夢想」を、今・現在と地続きの「夢」に変換していく新聞活用法をお伝えします。

 

1.目に留まった新聞記事を切り抜く

2.ノートに貼り付け、その記事を切り抜いた理由を余白に書く

3.以上を30回程度続ける

4.30回程度まとまったら、自己分析に進む

  記事スクラップをもとに、自分の好きなことやしたいことの傾向を文章にする

5.信頼している誰かにスクラップを見てもらい、記事選択に表れている分野や適性の志向を聞いてみよう

 

以上の活用法は当事者の視点で書いてあります。先生や保護者が機会を設定してくださるときは、期間を決めて収集させるとよいでしょう。

中学校1年から高校3年まで、毎年1回積み重ねていくと、自分の成長と変化もわかります。社会への関心を育てつつ、自分の「好き」に気付かせ、具体的な「夢」を形作っていく新聞活用法です。

令和2年8月16日

提案! 新聞で遊ぼう  ~「知の伏流水づくり」を ~

兵庫県INE推進協議会会長 秋田久子

 新型コロナ禍で大変です。

先生方は今、子どもたちの学力とやる気と習慣を守ろうと、懸命に工夫をしておられると拝察いたしおります。限られた環境と条件の中でのご苦労、お察し申し上げます。

ご家庭も大変です。私も働く二人の子の母親でした。学校・先生が頼りでした。STAY HOME・・・保護者の皆さんは今、子どもの安全と学力が気になり、目の前のゴロゴロ、キィーキィーで頭がぐらぐらなさっているだろうと思います。想像するだけで頭痛がしてきます。

 そこで、提案申しあげます。こんな時に、「新聞を使った遊び」はいかがでしょう。

「遊び」といっても、新聞です。ご存知のとおり、新聞一日分には新書一冊に相当する情報が入っています。ですからこの機会に、一緒に遊びながら、社会や世界に子どもの関心を向けてみませんか。たとえば、普段はなじみが薄い経済欄もこの機会にいかがでしょう。新型コロナの影響を手掛かりに、消費動向の変化や業界ごとの株価の動きなどを身近に感じることができますよ。

STAY HOMEの今こそ、新聞遊びで、子どもたちの「知の伏流水づくり」をいたしましょう。

 

では、新聞ゲーム「『この中で...これ!』~写真から推理する~」を紹介します。

用意するもの:新聞  対象年齢:小学校低学年から無制限  最適人数:2人~5人

手順:

①真ん中に新聞を広げる 

②一斉に「この中で...これ!」を合図に、それぞれが写真を一つ指さす

③解説する人の記事をみんなの手で隠す

④写真の場面を推理して解説する

⑤隠した記事をみんなで読んで、種明かしをする

(③~⑤を繰り返す。解説が終わってから「つっこむ」。「いつ」「どこ」「なにしてるの」など。解説がより詳しくなると種明かしが面白い) 

 

突飛な推理が面白さを倍増します。テレビ欄の新番組紹介写真や広告写真の解説のときにはゲラゲラと笑い転げました。中・高生なら外交面などは意外性があって面白いと思います。種明かし後に写真のGood Job判定もどうぞ。テンポよく、短時間で。慣れてくると「受ける」解説もやりだしますよ。

ただ、解説中には口を出さないことです。じっと聴くことです。新聞は古くてもOKです。図鑑や教科書の写真でも面白いですよ。

 

 「へぇー」という知的な驚きが「知の伏流水」を蓄えさせます。この機会に、どうぞ。 

 

先日こんな川柳が載っていました。

― 弟は 学校知らない 1年生 (東京都 桑澤凛さん8歳、朝日新聞4/29朝刊)」―

一日も早く収束しますように。

令和2年4月29日

先生方へ~NIEを、ご一緒に~

兵庫県NIE推進協議会会長 秋田久子

 ホームページへ、ようこそ。

私どもの今年度の活動テーマは「お若い先生方にも新聞を使ってもらおう」です。児童・生徒が新聞に触れる機会を作ってくださいますよう願っております。

 ところで、なぜ紙媒体の新聞なのでしょうか。今や情報収集のツールは多様で便利な時代ですのに。

 そこで、こんな場面を想像してみてください。雑多なモノがあふれかえって足の踏み場もない部屋、必要なモノがすぐに取り出せる状態ではありません。どこに何があるか、部屋の真ん中で途方に暮れる・・・。

どうやったら必要なときに必要なものを取り出して使えるようになるでしょう。それはやはり、カテゴライズ(分類)することです。用途ごとに、使う季節や場面ごとに、まとめて整理すると使いやすくなります。

子どもにとっては、学校の勉強は知識の整理棚を作ることです。同様に、新聞の紙面構成は「今」の社会の整理棚を知ることだといえるでしょう。

 大人は棚を持っています。分野や軽重でニュースを分類・整理しながら進んでいくことができます。でも、子どもは整理棚づくりの真っ最中。飛び込んでくるニュースを取るべきか、どの棚に整理するか、わからないから不安です。手元のスケールは誰でも、まずは興味と嗜好です。その興味と嗜好を生かし伸ばしていくためにも、広く情報に触れ整理して考えていく習慣が大切だと思います。

 児童・生徒が新聞を通じて、「今」の社会の整理棚を作っていけますよう、お力添えをくださいませ。私どもも先生方のご質問やご要望にできる限り応えられるよう努めてまいります。お問い合わせください。どうぞご一緒に、よろしくお願いいたします。

令和元年6月4日

NIEに導かれて

会長 秋田久子

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 私は新聞を教育に用いる「NIE―Newspaper in Education」活動を30年近くにわたって続けています。当初はNIEという言葉は知らず、手探りで新聞を国語教育の中に取り入れていました。きっかけを作ってくれたのは高校3年で担任をした2人の生徒です。

 優等生と野生児とでも申しましょうか、対照的な生徒がいました。この2人が、あろうことか、同じ大学の推薦入試を受けることになりました。その大学は企業との連携力、経済活動に資する人材を育てるという教育理念と育成すべき学生像の明確さで高い人気を誇っていました。大方の予想を裏切って、合格したのは「野生児」君です。

 明暗を分けたのは社会的関心の有無で、世の中がどう動いているか、そして自分はどう考え、どう参画していくか、加えて、それを伝える「熱意」でした。

 ショックでなかなか立ち直れない優等生君を支えながら、私は「よい高校生」を育てていたのではないか、「自立して社会に出て行く若者」をイメージできていなかったのではないかと慚愧(ざんき)の念でいっぱいでした。企業人の育成を明確に打ち出した大学が見ているのは、素直に「正解」を再現する力ではないと痛感させられました。それはとりもなおさず、私自身も学校も、常に社会的関心を持って教育活動に当たらねばならないということです。

 「サクラ咲キ」、新年度から教科指導に新聞を使い始めました。そして、学習内容と社会とのつながりを確認したとき、社会の一員として自分を意識したとき、生徒の学習意欲が盛んになることに気づかされました。生徒たちは社会人としての自分の将来を、とても真剣に考えていました。今まで私が見えていなかっただけなのです。

 3年後に異動した学校で、教育格差は環境の格差であり、情報の格差でもあることを思い知らされました。新聞の活用方法を工夫すると、生徒たちは面白いように社会の情報に食いつきました。それをもとに表現活動も工夫しました。認められる場、意見共有の場がクラスにできると、暴力的な行動も収まり学校生活に前向きに取り組むようになりました。伝わらないというもどかしさは苦しみであり、時には他者を傷つけてしまう可能性もあることに深く思いいたる経験でした。

 4年前から、私は兵庫県NIE推進協議会会長を務めています。NIE活動は1930年代にアメリカで始まり、80年代に静岡県が取り入れて国内に広がりました。 活動内容は、希望校への新聞の無償提供や新聞記者の無償派遣などです。日本新聞協会に加入している新聞社や通信社の拠出金が支えです。また、各都道府県推進協議会事務局の運営経費は各地方新聞社の提供によるものです。教員研修や学校支援の多くは、歴代の会長以下アドバイザーを務める現場の先生方の熱意に支えられています。

 兵庫県NIE推進協議会は発足20年になりました。NIEの意義や効果への認識も深まってきました。一方で、新聞を読む人の数は減っています。今年1月の新聞通信調査会の18歳以上対象の調査で、「ネットでニュースを見る人」が「朝刊で読む人」を上回りました。最近では、情報の信頼性を意識するという面からも複数の情報源を持つことを大切にしよう、先生方にこそまず新聞に触れてもらいたいと訴えています。

 もし、新聞が1紙だけになったらどうなるか、新聞がなくなったらどうなるか。現時点では新聞に代わりうるメディアはまだないと考えています。一覧できて比較できて記録性がある。ファクトチェックも、時に揺るぐ事件があるけれど、されている。むしろ、問題は読む力の衰えにあるのではないか。読む力の衰えは興味のたこつぼ化をもたらし、次は分断につながっていく・・・のではないかと感じています。

 現場の先生方の社会への関心が授業と現実の世界とつなぎ、子供たちの学びを深くしていきます。そして、その先に安心で安全な心豊かな我が国の未来がある、そう考えています。どうぞこれからも、ご一緒にNIEを進めてまいりましょう。よろしくお願いいたします。

平成30年12月