2023年8月アーカイブ

 教育現場で新聞を活用するNIEの第28回全国大会が8月3、4日、松山市で開かれた。兵庫県内からも教育関係者が数多く参加した。参加者の感想を紹介する。

 佐伯奈津子・姫路市立飾磨中部中学校教諭(日本新聞協会NIEアドバイザー) 今年のNIE全国大会は、松山の地で行われた。夏目漱石の「坊ちゃん」の舞台であり、正岡子規生誕の地でもある文学の香りが高いこの地での開催ということで期待せずにはいられなかった。なかでも俳人の夏井いつきさんの講演が楽しみで、どのようなお話が聞けるのかと大変楽しみであった。松山は俳句の盛んな地である。兵庫県伊丹市と同様、俳句を大切にするとともに、「ことば」を通してのまちづくりをしようという姿勢が強く感じられた。行政面からのバックアップも頼もしく、開会式では愛媛県知事と松山市長があいさつされ、教育面にもとても力を入れられている様子であった。
 NIEの実践発表においても「クロヌリハイク」のワークショップが1部、2部ともに開かれ、多くの教師が楽しく「クロヌリハイク」に参加できた。紙面を黒く塗りつぶして言葉を選び俳句を作るというもので、語彙が少ない生徒にも言葉の選択肢が増え、俳句作りに取り組みやすい仕掛けとなっていた。
 今回、たびたび話題に上ったのが、新聞を読んでいくにあたって「紙」か「デジタル」どちらがよりよいかという内容であった。もはや教育界にICTの使用は必要不可欠なのはいうまでもないが、やはり「紙」であるアナログもじっくり見直すにはこちらが良いと見直され、有意義な発表であったように思う。
 2年後のNIE全国大会の開催地が神戸ということで、兵庫県の強み、姫路に特色は何かということを考えながら発表を拝見させてもらった。2年後、兵庫県に来てよかったと言ってもらえる全国大会にしたい。

  ほかの参加者の感想についてはこちらからお読みください。

 最初の任地は北海道室蘭市だった。赴任し一人暮らしを始めたとき、役所で転入手続きをし、電気・水道・ガス・電話などの開通開栓手続きを終え、最後に新聞の契約をした。

 翌日の朝、まだ何もない家のポストに地元の北海道新聞が届く。天気予報はどの地区を見ればいいのか、テレビのチャンネルはどうなっているのか―など新鮮な驚きとともに、教員生活が始まった。やがて電話帳にも名前が載り、自分の人生が始まったことを新聞と電話帳から実感した。個人情報の保護など全く考えられていなかった36年前の話である。

 日本新聞協会の「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、発行部数を世帯数で割った「1世帯当たりの部数」が、2000年は1.13で22年は0.53、約20年間で半分以下になっている。授業で「新聞を使いますので、持ってきてください」と生徒に声をかけても「新聞が家にないのですが」「ネットではだめですか」という声も多く、自宅に紙の新聞がないことを前提に「家にある新聞を持ってきてください。なければこちらで用意します」と言うようになった。

 そんな実態を踏まえながらも、紙の新聞と出合い、新聞を通して人についてよく知ることで、地域や日本、世界、地球、さらには宇宙の現在・過去・未来について考えを深めてほしい。新聞が、よりよく生きるために他者の考えを聞き、自分の考えを深め表現するためのツールになれば、という思いでNIE活動に取り組んでいる。

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 NIE授業は新聞を読むところから始まる。日本新聞協会の「新聞を活用した教育践データベース」をはじめ、兵庫県NIE推進協議会のNIE実践報告書などにも数多くの実例が紹介されている。

 一歩進めて、生徒が自主的に新聞を活用するにはどうすればいいかと考え、学習支援アプリ(ロイロノートスクール)を用いて授業に新聞を取り入れるようにした。名づけて「週刊国語表現」。週一度、70~90本の新聞記事を各自のタブレットに配布し、漢字の小テストに利用するとともに、授業のたびに、記事から感じたことや気づいたことを提出させ、生徒同士で共有している。毎時間席替えを行い、パフォーマンス課題に取り組むにあたって、「小さな相談会」として3人1チームでプレゼンテーションし合い、他の生徒の視点や考え方に触れられるよう毎時間繰り返し行っている。

 生徒は仲間の視点を知ることで触発され、「週刊国語表現」の読み方が深化し感想の字数が飛躍的に増えた。(資料1、2)

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 字数制限せずに考えたことをできるだけたくさん言語化することで、自身の考えを「見える化」できる。それは、さらにより多くの字数を書くことにつながり、内容の深化も図れているのではと思う。(資料3)

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  日ごろ新聞を読んだことがない生徒にとっては、新聞はある意味「特別なもの」だが、日常的に大量の記事を目にすることで新聞に慣れ、仲間の異なる見方に気づくことで、自分の見方で読んでみようという気になるのではないか。

 生徒からは「新聞を読むことで社会の出来事に関心を持つようになり、テレビのニュースもよくわかるようになった」「最近のニュースについて夕食時、親との会話が弾むようになった」という声も聞く。

 これまでの取り組みを通し、生徒は新聞から得られる情報の多様性と信頼性、さらには新聞を読むことの面白さを知ることができたのではと思う。

 今後もさまざまなパフォーマンス課題に取り組みたい。そのとき、新聞や書籍、雑誌、インターネットのサイトや交流サイト(SNS)など多様なメディアから必要な情報を選び、使いこなせるようになればいい。新聞を与えられて読むのではなく、現実を知り、解決策を考え深めるとき、「そうだ、新聞を読もう!」という思いになれば、と考えている。

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 「新聞を読む」のが当たり前だったのは一昔前のことだ。だからこそ、改めて新聞に触れ、面白いと感じる体験を積むことが大切になる。その結果、社会や身の回りに起こっている出来事に疑問を持ち、もっとよくしていこうという姿勢が育まれるのではないか。新聞は、若い世代がよりよい未来を考える上で、身近で大切なツールだ。今後も生徒と新聞との出合いの場をつくっていきたい。

米田 俊彦(日本新聞協会NIEアドバイザー/愛徳学園中・高校教諭)(8月21日)

各地の教員研究組織

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 第1回NIE「わたしの推し記事コンクール」 兵庫県NIE推進協主催 最優秀に藤原さん(西宮・浜脇中2年)、中村さん(愛徳学園高3年)

 兵庫県NIE推進協議会が初めて募集した「NIE『わたしの推し記事』コンクール」の入賞者が決まった。対象とした県内の小中高校の児童・生徒から348編の応募があり、最優秀賞に、西宮市立浜脇中学校の藤原菜都乃さんと、愛徳学園高校3年の中村暖さんの作品が選ばれた。

 当協議会は、新聞からそれぞれの「推し記事」を選んでもらい、紹介・感想文を書いてもらおう―とコンクールを企画した。NIE実践校の指定が終了した学校にもNIE活動を続けてほしい、との願いを込めた。他のコンクールと競合しないよう、今年1~4月の新聞記事から作品を募集した。

 応募総数348編の内訳は、小学校=5編(1校)▽中学校=67編(2校)▽高校276編(2校)。寄せられた「推し記事」の分野は、政治・社会からわがまちまで多岐にわたった。

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 「わたしの推し記事」コンクールに寄せて

 「推し活」が2021年の新語・流行語大賞にノミネートされ、宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が第164回芥川賞を受賞するなど、今、空前の「推し」ブームが起きています。

 兵庫県NIE推進協議会が企画した第1回「NIE『わたしの推し記事』コンクール」には、「推し」に関する記事が新聞に載っていれば、その記事をもっと広めたいと思っていただけるだろうとの思いをこめました。

 応募総数は348編に上りました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。審査を行い、各部門の賞を決定いたしました。受賞された皆さん、おめでとうございます。

 寄せられた「わたしの推し記事」は、社会、政治、地元産業、理科、スポーツ、わがまちなど多岐にわたっています。一覧性、網羅性のある新聞記事だからこそ、多様な分野の推し記事を見つけていただけたのだと思います。これからも「推し」に対するほどの熱意をもって新聞を読んでいただけるよう、当協議会でさまざまな活動を実施してまいりたいと思っています。

                       兵庫県NIE推進協議会 吉田 尚美 コーディネーター

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入賞者のみなさん、おめでとうございます!

【最優秀賞】                                        

小学校 該当なし

中学校 西宮市立浜脇中学校2年 藤原 菜都乃  受賞作品はこちら
タイトル:私の推しは「シジュウカラ」です
掲載記事:日本経済新聞2022年6月30日付
見出し:鳴き声は文章「鳥語」発見◇シジュウカラを観察、単語や文法を世界で初めて証明◇鈴木俊貴

高等学校 愛徳学園高等学校3年 中村 暖(ひなた) 受賞作品はこちら

タイトル:私の推しは「明石市」です
掲載記事:神戸新聞2023年4月19日付
見出し:「ひっぱりだこ飯」からヒョッコリ パパたこストラップ発売 観光協会が淡路屋とコラボ

【優秀賞】                                         

小学校 姫路市立大塩小学校6年 名田 ここね

中学校 西宮市立浜脇中学校2年 篠﨑 虎之

高等学校 県立有馬高等学校3年 森 莉子

【佳作】                                          

小学校 該当なし

中学校 神戸市立丸山中学校西野分校2年 程 玉梅

高等学校 県立有馬高等学校2年 疋田 知優(ちひろ)

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入賞者一覧、審査基準と受賞理由についてはこちら