記者派遣

【寄稿】ウクライナでの取材語る 朝日新聞元特派員が「出前授業」

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甲南高・中で記者派遣事業

 甲南高等学校・中学校(芦屋市)では、日本新聞協会の2023年度NIE実践校として、複数の学年において新聞活用の取り組みを行っている。その一環として、10月20日、ロシアによる侵攻が続くウクライナを実際に取材した経験のある記者の方を招いての講演会が実施された。

 本校では、中学3年生からグローバル教育に特化した「グローバルスタディ・プログラム」を各学年1クラスで実践している。単に英語の知識だけではなく、世界的な視野で物事をみることのできる生徒の育成を目的とし、その一環としてSDGsや国際平和をテーマに探究学習を展開している。

 教員間で相談した結果、現在のウクライナ情勢を踏まえ、国際平和に関して現実の問題を身近に感じるような「出前授業」を依頼したいと考えた。そこで、戦闘地域、できれば2022年2月からロシアによる侵攻が始まったウクライナで実際に取材した記者の話を聴きたい、と兵庫県NIE推進協議会に申請した。申請が認められるか不安であったが、実際にウクライナに取材に入った経験を持つ記者に引き受けていただくことができた。

 貴重な体験をされた記者に引き受けていただけるという幸運な機会に恵まれ、その授業をできるだけ多くの生徒に還元し実効性を高めるために 高校1年生から3年生までのグローバルスタディ・プログラムの履修生約120人に、2時間連続の時間割を組み受講の準備をした。

 講師は、朝日新聞の金成隆一記者(現・大阪本社社会部次長)である。過去に優れた報道で国際理解に貢献したジャーリストを表彰する「ボーン・上田記念国際記者賞」の受賞歴もある。金成記者は2022年1月から計4回、ウクライナに滞在し、ロシアによる侵攻後も、甚大な被害が出たブチャをはじめ、各地での取材を重ね多数の記事を発表している。

  「出前授業」においては、戦闘の状況だけでなく、戦争前の街の様子、一般市民の軍事訓練やそのインタビュー、日本人を含む国外からの志願兵、ブチャを離れた人々への取材など、現地の人々の様子や生の声を伝える写真や動画が多数あった。2時間連続してであったが、生徒たちも金成記者の話に聴き入り、あっという間に時間がたつというインパクトの強いものとなり、生徒たちの意識の中にも大きくとどまるものであった。

 兵士や市民との個別のやりとりも紹介され、「私は逃げられない、国に残って家族を守る。ここには守りたいものが多すぎる」といった女性兵士の言葉や、「私たちがやらなければ、誰も守ってくれません。故郷は自分たちで守らないといけないのです」という軍事訓練に参加する初老の市民の言葉など、生徒たちがそれを反すうし、自らの中で意味づけを深めていけるように工夫されたものであった。

 最後に、授業中に生徒各自がメモした内容を踏まえて、生徒からの質問にも応じてもらうことができた。「取材時に恐怖はなかったですか」「現地の人々の心的影響はどのようなものですか」「ロシアへの取材もしたいと思いますか」など、質問をする生徒が途切れることなく、その後も会場に残り質問を続ける生徒も見受けられた。

 また、「取材する際の言語は英語ですか」との問いに「英語はもちろん重要ですが、皆さんはまだ若いので、使える言語を英語以外にもう一つ持つことによって、これから自分が動ける世界が広がります」など、生徒の今後の勉学にも示唆的な話も伺うことができた。

 平和への思いを深めるだけでなく、国際紛争を通じて平和の持つ意味を今後も生徒たちが探究していく一つの契機になった有意義な「出前授業」であった。

足立恵英(甲南高等学校・中学校副校長)(11月7日)

[写真㊤]ウクライナでの取材について語る朝日新聞社の金成隆一記者=いずれも甲南高等学校・中学校  [写真㊨㊦]熱心に質問する生徒 

23年10月23日付朝日新聞朝刊神戸・阪神・ひょうご版の記事 231020kounann kouasahikikou2.JPG

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