教員によるNIE実践

【寄稿】近藤紘子さんの平和学習特別講話

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 近藤紘子(こうこ)さん(79)=三木市=は広島原爆の、著名な被爆者の一人である。愛徳学園中学校(神戸市垂水区)の3年生は10月、広島に修学旅行に行き、帰校後、NIE活動の一環として、「ヒロシマ」をテーマにした新聞製作や、同学園の児童に「平和」について伝える授業を行う。修学旅行前の学習として9月25日、生徒たちは近藤さんから話を聞いた。生徒たちは何を感じ、何を思ったのだろう―。同校の米田俊彦教諭にご寄稿いただいた。

 「1945年8月6日、その日の朝は本当にきれいな青空だった」という言葉で講話が始まりました。生後8カ月でおかあさまの腕の中で被爆され、その後を生きてこられた体験の講話です。 

本校の中学3年生は10月16~19日、3泊4日の日程で広島、中国地方へ修学旅行にまいります。「平和」「ともに生きる」とはどういうことかについて深く学びます。

 近藤紘子さんは、被爆直後の様子や、その後成長していく中で被爆した方と出会い、交流されたこと、ABCC(原爆傷害調査委員会)で健康調査を受けたときのつらい体験など、原爆に対する思いとその思いの変化についてお話しくださいました。

 近藤さんは、原爆を落とした行為と落とした人に対する強い怒りとともに生きてこられました。しかし、原爆を投下したエノラ・ゲイ号の副操縦士とアメリカで会い、その方の「自分のしたことに対する後悔」の言葉と涙を目にし、手を触れたそのときに、「憎むべきは戦争です」とお気づきになりました。この近藤さんの言葉は、私の心にも深く刻まれ、これからも問い、考えていかなければならないことだと強く思いました。

 また、被爆者のため力を尽くされたお父さまのこと、原爆投下直後のルポルタージュ「ヒロシマ」(ジョン・ハーシー著、石川欽一・谷本清・明日川融訳)をめぐるお話や、2016年のオバマ米大統領(当時)の広島訪問のことなど、現代に至るまでのエピソードを交え伺いました。幼少期のお召しものなど実物も紹介されました。

 講話の後、「平和な地球にするにはどうすればいいと思いますか」という近藤さんの問いに対し、生徒一人ひとりが話した言葉に「希望」を強く感じました。

(以下、生徒の言葉です)
「自分のことだけじゃなくて、人のことも考えて過ごしていったら戦争はなくなるのではないか」
「今のことや未来のことだけじゃなくて、過去のこともしっかり見ていくことが大切だ」
「これまでに戦争で亡くなった方々のことや傷ついた人々のことを忘れずに過ごしていくこと」
「過去の戦争のことを一人ひとりが忘れないこと」
「他人の気持ちを思いやって過ごしていくことが平和につながる」
「一人ひとりが平和について考えて、生きていくことが大切」

 そして、「たくさんの人に会い、意見を聞いて、知識を得て自分より下の世代に受け継いでもらう」など、生徒たちははっきりと、あるいは自分の中から絞り出すように、一言一言、ゆっくりと思いのたけを言葉にしていました。

 近藤さんからも「自分が言いたいことを言うことが大切で、自分の意見がしっかり言えていましたね。地球はとってもきれいで美しい。これを壊われないようにし、真の平和の実現を皆さんにゆだねていきたいと思います。これを受け継いでいってほしい」というお言葉をいただき、生徒の思いと近藤さんの思いが交わりつながった、生涯心に残る講話になりました。

 今年のノーベル平和賞は「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」の受賞が決まりました。戦後約80年間、世界の戦争で核は使用されていません。これは苦しみを受け、繰り返してはいけないというメッセージを訴え続けてこられた多くの方の力だと思います。

 そんな今、近藤さんのご体験と思いを受け継ぎ、生徒の言葉を実践していくことが大切なのだと改めて思いました。 

 生徒たちの帰校後も含めた取り組みは、来年夏の「NIE全国大会神戸大会」で実践発表する予定です。

米田 俊彦(愛徳学園中高等学校教諭、日本新聞協会NIEアドバイザー)(10月16日)

[写真説明]平和への思いを語る近藤紘子さん=愛徳学園中学校