地理の授業の冒頭で、1日1人ずつ新聞記事を紹介する取り組みをしている。今年の2月になり、何人もの生徒がウクライナのことを取り上げ始めた。発表を聞いている生徒の中には、「何が起こっているの?」「どういうことなの?」との疑問の声もあった。そうこうしているうちに2月24日、ロシアがウクライナに本当に侵攻してしまった。これは大変なことになる。どうしよう。自分には何ができる? 迷ったあげく、同僚に「授業でウクライナを取り上げませんか」とメールを送った。
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子どもたちは、地理、歴史、道徳などで、ある程度はヨーロッパのことや戦争を学んでいる。教科書の学びにとどめず、現実に起こっている世界的な大事件に、日常の学びを結びつけられるかもしれない。単に「戦争反対」や「かわいそう」にとどまらず、学んだ知識や調べた情報をもとに、自分の頭で、この大事件を考えさせたい。そんな思いのもと、授業を企画した。
生徒たちはまず、ウクライナ・ロシアの地理・歴史を調べてまとめた。小麦の産地であったり、地下資源のパイプラインが地理の教科書に掲載されたりしているのを見つけていた。歴史の教科書では、ロシアの国の広がりの歴史を見つけたり、日露戦争、ロシア革命、ソ連崩壊のページを丹念に読み込んだりしていった。
次に生徒たちは、いくつかのキーワードを検証していった。こちらが指定したのは、クリミア、アフガニスタン、ヒトラー、キューバの四つ。ここで一つ興味深い現象が起こった。クリミアを調べた生徒のなかに、2014年のクリミア問題のみならず、19世紀のクリミア戦争を調べる生徒がいた。アフガニスタンでも同様で、20世紀のアフガニスタン侵攻を検証した生徒と、2021年のアフガニスタン問題を検証した生徒がいた。
僕たち大人は、どうしてもNATO(北大西洋条約機構)やソ連といった冷戦構造に縛られて考えてしまうが、生徒たちにそんな縛りは存在しない。生徒たちは、大人が想像するより、もっと柔軟で、もっと思慮深く、もっと多面的に分析を進めていった。
最終段階で、生徒たちは、これから先に心配されるシナリオを予想したり、自分の意見をまとめたり、今回の当事者への手紙を書いたりしていった。ある者はウクライナから避難している人々宛てに、ある者はロシアの中で戦争に反対している人宛てに、またある者はウクライナの中学生宛てに。ウクライナ語、ロシア語で表現しようとする生徒もいた。
授業する教師にさえも解決方法が分からない大事件。生徒も教師も自分の頭で考え続けるしかない。「考え続けること」こそが本当の意味での社会科授業なのかもしれない。
西村 哲(西宮市立浜脇中学校教諭)(2022年3月30日)
[写真説明]ロシアによるウクライナ侵攻をテーマにした授業=西宮市宮前町3、浜脇中学校