2025年8月アーカイブ

 「第30回NIE全国大会神戸大会」(7月31日~8月1日、神戸市内)が閉幕しました。全国から教員やメディア関係者ら約1800人が集った大会を参加者のリレー寄稿で振り返ります。

① NIE俳句 松山から神戸へつなぐ

② 豊富小中学校のNIE実践

③ 浜脇中学校のNIE実践

④ 特別支援学校のNIE

社会とつながり、生徒を支える力に

 幅広い読者を想定した紙面づくりを目指している。難しい漢字にはルビを振り、「記事は短く、分かりやすく」と現場の記者に求めている。そんな新聞を特別支援学校ではどんなふうに活用しているのか。聞いてみたくなり、兵庫県立のじぎく特別支援学校(神戸市西区)の実践発表の講評に手を挙げた。

 担当の藤本友美教諭(現・兵庫県立上野ケ原特別支援学校教頭さくら訪問学級担当)は2年間のNIE実践を「スモールステップで進めることに注力した」と振り返りつつ、生徒たちの興味・関心がより広く、より深くなっていく過程を紹介した。

 授業の進め方を聞くと、新聞との関わり方に工夫が凝らされていることがよく分かる。まず1年目の「(1)新聞を見よう」と「(3)ニュースを知ろう」は、読者の目線で新聞と触れる内容だ。続く「(2)わからないことを聞こう」や「(4)気になるニュースを伝えよう」は記者の視点に近い。興味のあるニュースを選び、その理由について考えることは、どんな取材を進めるのかにも通じる。

 さらに「(5)新聞をつくろう」と2年目の実践は、新聞発行の作業であり、レイアウトや見出し(タイトル)を考える整理部門の視点が必要になる。「見る・知る」から「聞く」「伝える」「つくる」までを連続して学ぶことで、これまでとは違ったニュースの読み方や、批判的な視点も身につくのではないか。

 会場には、藤本先生を編集長に生徒たちが手がけた「給食新聞」が貼り出されていた。目を引いたのは「どうしてオムライスの時にケチャップがないのですか」という栄養教諭への質問だ。学校生活で感じた疑問を尋ね、答えを記録し、記事にして伝える。「学校で使える塩の量が2.5㌘と決まっているから。ケチャップを使うと塩分の取りすぎになる」という回答を引き出した生徒は納得した様子だったといい、ケチャップのかかっていないオムライスに疑問を感じていたほかの生徒にも大きな反響をもたらしただろう。

 新聞社側からはウェブ記事の活用を提案したい。各社のウェブ版には、紙面よりも詳しい記事やウェブのみのコンテンツが揃う。紙面のようにスペースの制約がなく、複数の関連写真が掲載されることも多い。動画コンテンツを見れば、音と映像で現場の様子が伝わり、データベースの検索機能によって紙面で読み落とした記事にも出合える。ウェブ情報の活用によって、さらに深くニュースに触れることができ、紙の新聞にとどまらず「スマホなどを使って正しい情報を得る」という、初日のパネル討議の提案にも合致している。

 藤本先生は、授業を通じて新聞と能動的に向き合うようになった生徒たちに触れ、発表をこう締めくくった。「NIEの実践を通じて身につけた『見る・聞く・知る・伝える・つながる力』は、必ずやこの先、生徒たちが生きていく上で彼らを支える力となると確信している」。新聞の役割を改めて自覚し、作り手としてこちらの背筋が伸びる報告だった。

三木良太(神戸新聞社報道部長)(8月27日)

250827nojigiku.jpg[写真説明]「スモールステップで進めてきた」。特別支援学校のNIE実践発表は示唆に富んでいた=8月1日、神戸市東灘区岡本8、甲南大学岡本キャンパス

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 西宮市立浜脇中学校は兵庫のNIEの代表的活動校の一つだ。NIE全国大会神戸大会2日目(8月1日)の分科会では、公開授業と実践発表、ポスター発表すべてを行っていただいた。当日の模様を、同校の野上耕佑教諭の寄稿で振り返る。

 公開授業に登場する「NIEノート」とは、全校生約800人が週1回、自宅で新聞記事を選んで感想を書き込むノートのことだ。各学級では社会科授業の冒頭、生徒たちが意見交換し、数人が記事を選んだ理由や調べたことを発表している。

<公開授業>「NIEノート」を通して、主権者としてのまちづくり~住み続けられるまちづくりを目指して、企業と地域との連携」=分科会第1部

250824hamawakityuunojixtusen○.jpg  渋谷仁崇主幹教諭による公開授業のテーマは「新聞から考える、いのち輝くまちづくり」。3年生が各自の「NIEノート」に貼った切り抜き記事や書きためた感想をもとに、災害、熱中症、ジェンダー平等などの社会課題について意見を発表した。自分ごととして捉えているかがポイントだ。

 車いすを利用する生徒が「災害時に必要なのは、普段からの声かけ」と語った場面では教室全体が静まり返り、少し緊張していた生徒たちに聞く姿勢が自然と生まれた。津波注意報の誤認経験をもとに「情報の受け取り方が命に関わる」と語る生徒もいた。新聞が「命を守るメディア」であることを実感する授業となった。

 公開授業には全国各地の約200人が参観し、「生徒の視点が鋭い」「社会課題との関係性が明確」との声をいただいた。大会初日(7月31日)にジャーナリストの池上彰さんが司会を務めたパネル討議「情報で、命を守る」、作家の小川洋子さんによる記念講演「言葉は人をつなぐ」があった。公開授業がそれぞれのテーマを教育現場で具体化する場となったなら幸いだ。長年の新聞活用の取り組みを通じ、生徒が命を守り、自身と社会とつなぐ力を育んできたと感じた。

[写真説明]事前に書いてきた自身の「NIEノート」を発表する生徒たち=8月1日、神戸市東灘区岡本8、甲南大学岡本キャンパス

<実践発表>「アイデアミーティングで住み続けられるまちづくりをデザインしよう~SDGs学習、ジュニアEXPOを通して地域産学との連携」=分科会第2部

 公開授業後には渋谷仁崇主幹教諭による実践発表が行われ、浜脇中学校のNIE活動の全体像が紹介された。本校は新聞を入口として「いのち輝くまちづくりを考える」をテーマに、全校生が「NIEEノート」に取り組んでいる。

 ジュニ アEXPO2025との連携では、新聞記事から課題を抽出し、地域企業や大学と協働して「まちづくり」を考察。防災、福祉、環境、テクノロジーなど多様な視点から、命を守り、輝かせる社会のあり方を探究している。

 また企業人や新聞記者との対話や、地域の小学校、高校、中央図書館との協働を通じて、メディアリテラシーや主権者としての社会性の育成も図っている。今後も、生徒一人一人が「社会の一員として命を考え、まちをつくる力」を育めるよう、新聞教育の可能性を探り続けていきたい。

<ポスター発表>「衆議院選挙模擬投票」=写真㊦

 2024年10月27日に行われた衆議院選挙に合わせ、本校3年生288人(当時)を対象に、兵庫7区(西宮市南部、芦屋市)の模擬投票を行った。事前に、神戸新聞社記者による出前授業や、各新聞社のボートマッチを通してどこに投票すべきなのか考えさせた。また、開票後には実際の結果と比較し、考察を行い、生徒たちが「1票の重み」を実感する経験となった。

 ポスター制作では、生徒の「NIEノート」や模擬投票の様子の写真を用いて、見た人が分かりやすいように仕上げた。また、実際の投票結果の比較を載 せ、関心を持っていただけるよう意識した。実施後に行ったアンケートでは、「ポスターのレイアウトが素晴らしい。発表のポイントがよくわかった」「政治への関心が高まるとてもいい取り組みだと思う」といった意見をいただいた。

 生徒が選挙を「自分ごと」として捉える機会になる。さまざまな学校で取り組んでいただけるとうれしい。

野上耕佑(西宮市立浜脇中学校教諭)(8月24日) 250824hamawakityuuposuta-.JPEG

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 姫路市立豊富小中学校は兵庫のNIE活動をけん引する学校の一つだ。NIE全国大会神戸大会2日目(8月1日)の分科会では、公開授業と実践発表、さらにポスター発表も行っていただいた。当日の模様を、担当した先生方の寄稿で振り返る。

 <公開授業>「新聞で開くメディアリテラシー~全国の子ども新聞から迫る、情報の向こう側~」=分科会第2部

 250820toyotomisyoutyuu.jpg公開授業では、東日本大震災を扱った異なる新聞記事を読み比べ、その内容の違いから、発信者の思いや意図を探った。同一の震災を取り上げた記事でも、地域や時期によって焦点が異なる。比較することで違いが浮き彫りとなり、子どもたちは情報の背景にある発信者の思いなどを推し量ることができた。

 さらに、実際に記事を書いた神戸新聞記者から作成の経緯や取材時の思いを聞いた。授業を通して子どもたちは、新聞記事は決して無機的なものではなく、その向こう側には人がいることを実感してくれたのではないか。

 歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリは、情報を、さまざまな点をつなげてネットワークにして新しい現実を創り出すものだと説明している(『ネクサス:情報の人類史(上)』河出書房新社、2025)。

 新しい現実は、情報の発信者と受信者の相互作用によって形づくられるもの。新聞記事は単なる情報媒体ではなく、人と人をつなぐコミュニケーションの場といえる。だからこそ、情報から豊かに意味を紡ぐ知性と責任を持った主体的な受信者であってほしい。そんな子どもたちの姿を目指し、歩みを進めた1時間となった。

前野翔大(前期課程教諭)

[写真説明]東日本大震災の発生時と2025年の神戸新聞記事の異なる点を考える児童たち=8月1日、神戸市東灘区岡本8、甲南大学岡本キャンパス

 <実践発表>「『?』を『!』に 新聞から始まる継続型探究学習~姫路の魅力発見! 未来への夢プラン~」=分科会第1部

 私たちが取り組んだのは、義務教育学校の特徴を生かした前期課程(6年生)から後期課程(7年生)にまたがる探究活動である。

 新聞を入口としてスタート。子どもたちは新聞記事から地域の課題を発見し、そこから自分たちの興味・関心を深めていった。その後は実際に姫路の魅力について現地調査を行い、深い学びへとつなげた。そして、神戸大会で集大成となる姫路の魅力を伝える実践発表を行った。

 参加した生徒の一人は振り返って、「当たり前ではない貴重な経験ができた。6年生の時から仲間と一生懸命に調べ、工夫して発表した」「発表後には多くの方から『よかったよ!』と声をかけてもらい、とてもうれしかった」と語った。大きな達成感を味わったようだ。

 この経験は、子どもたちにとって、自ら課題を見つけ、解決する力を育む大きな一歩となった。今後も、地域に根差した探究活動を継続していきたい。

川村かおり(前期課程教諭)、古寺和子(後期課程教諭)

 <ポスター発表>「豊富小中学校のNIEを紹介せよ!」=写真㊦

 このたびは、NIE神戸大会でポスターを発表する貴重な機会をいただいた。

 本校のNIE活動を「紹介せよ!」というミッションのもと、ポスターにまとめた。ポスター制作にあたっては、普段の活動で子どもたちが実践している工夫を取り入れた。たとえば、新聞や広告の文字をちぎってコラージュする手法を使い、視覚的に訴えるポスターに仕上げた。また、お気に入りの記事を紹介し合う際に使用している「吹き出しカード」にコメントを書き込むことで、活動の様子を生き生きと伝えられるよう努めた。

 テーマは「つくるとつかう」「情報活用能力とメディアリテラシーの育成」。言葉の力をつけるための「朝の学習タイム」の取り組みについても、低学年から高学年、そして後期課程まで段階的に紹介した。

 ポスターに込めた私たちの思いが、全国から集まった皆さまに伝わったならうれしい。未来へ向けて、子どもたちが自ら考え、判断する力を育むNIE活動を続けていきたいと改めて決意した。この貴重な経験を今後の活動に生かしていきたい。

代表=川村かおり(前期課程教諭)(8月20日) 250824toyotomisyoutyuposuta-.JPEG

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250814niehaikusikamatyuubutyu○.jpg 俳句の町・松山からの参加ということで、分科会第2部、姫路市立飾磨中部中学校の実践発表「NIE俳句~記事の写真から豊かにイメージしよう~」の講評を担当させていただいた。

 発表者の佐伯奈津子先生は、2023年のNIE全国大会松山大会で「クロヌリハイクワークショップ」に参加したことをきっかけに、NIE実践に俳句を取り入れたという。愛媛から神戸へと、NIEの糸がつながっていることに喜びを感じた。

 今回の分科会でも「クロヌリハイク体験」の時間が設けられ、参加者は配布された新聞記事から季語などの言葉を選び、周囲を黒く塗りつぶして俳句づくりに挑戦した。制作時間は10分弱と限られていたが、多くの参加者が一句を詠むことができ、記事から言葉を探すことで作りやすくなるというクロヌリハイクの長所を改めて実感した。

 続いての発表では、新聞に掲載された写真を題材にした俳句づくりの取り組みが紹介された。生徒それぞれが俳句づくりに取り組む前に、写真から連想される言葉を皆で出し合う時間が設けられ、語彙(ごい)が少ない生徒でも発想を広げやすくなるよう工夫されていた。見出しや記事本文から言葉を選ぶことも可能で、クロヌリハイク同様、誰もが取り組みやすい点が魅力である。

 新聞記者が写真を撮る際には、なるべく人物を入れて撮影する。人物が入ることで写真に温かみが出て、現場の雰囲気がより伝わりやすくなる。そうした写真は情景を想像しやすく、俳句の題材としても適している。実際に授業で使用された、菜の花畑に立つ親子の写真からは、「暖かい陽射し」「春風」「ほのぼの」といった豊かなイメージが広がっていた。

 佐伯先生は「俳句づくりを通して、日本の四季や言葉選びに敏感な生徒に育ってほしい」と語っており、その思いに深く共感した。言葉を丁寧に選び、情景を想像する力は、子どもたちの内面を豊かにし、これからの社会で求められる力につながると感じた。

 意見交換会では、秋田、山梨、愛知、鹿児島など全国各地から参加した先生方から活発な質問や意見が寄せられ、「自校でも実践してみたい」との声も聞かれた。佐伯先生の「特別な取り組みではなく、いつでも誰でも取り組めるNIEを紹介したい」との言葉に、参加者は笑顔でうなずいていた。

 神戸から全国へ、NIEの糸がさらに広がってゆくことを期待している。

村上 ともこ(愛媛県NIE推進協議会事務局長、愛媛新聞社地域読者局読者部副部長)(8月18日)

[写真説明]NIE俳句の実践発表。神戸大会2日目の分科会では4つの公開授業、22の実践発表、特別分科会、ワークショップが行われた=神戸市東灘区岡本8、甲南大学岡本キャンパス

 2025年夏の「NIE全国大会神戸大会」(7月31日~8月1日)に向けて、神戸新聞社NIE神戸大会事務局が「ひょうごNIE通信―2025神戸大会へ―」を月1回発行し、大会の準備状況などを紹介しています。

 ぜひお読みください。

第12号  (2025年8月6日号)

第11号  (2025年7月1日号)

第10号  (2025年6月1日号)

第9号  (2025年5月1日号)

第8号  (2025年4月1日号)

第7号  (2025年3月1日号)

第6号  (2025年2月1日号)

第5号  (2025年1月1日号)

第4号  (2024年12月1日号)

第3号  (2024年11月1日号)

第2号  (2024年10月1日号)

第1号(2024年9月1日号)

 「ひょうごNIE通信」第12号を発行しました。「第30回NIE全国大会神戸大会」(7月31日~8月1日)で行われた全4校の公開授業や、北海道から沖縄まで全国71校・団体・新聞社から寄せられたポスター発表、大会の内容をリアルタイムで伝えたグラフィックレコーディングなどについて紹介しています。大会は約1800人の皆さまに参加いただきました。ありがとうございました。250805ひょうごNIE通信12号_page-0001.jpg

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                           250805ひょうごNIE通信12号.pdf