震災があった1995年の10月、映画「男はつらいよ」のロケが神戸市長田区でありました。同区の障害者共働作業所「くららべーかりー」は、被災したパン屋のモデルになりました。
震災から丸18年を迎えますが、今も「くらら」では、職員と障害があるメンバーがパンを作り、販売しています。代表の石倉泰三さん(60)は、NPO法人の理事長になりました。「17日、何をして過ごしますか」と聞いてきました。
17日、長田区の新長田駅前広場で、震災で亡くなった人の鎮魂と復興への願いを込め、ろうそくをともす行事「1.17KOBEに灯りをinながた」が開催されます。石倉さんは、実行委員会の委員を務め、会場でコーヒーの炊き出しを担います。妻の悦子さんも一緒です。
石倉さんは、炊き出しに特別な思いがあります。
市場の中にあった「くらら」は、オープンから9カ月後に震災に遭い、半壊しました。落ち込んでいたところ、障害があるメンバーから、「パンを焼こう」と言われ、炊き出しを思い立ちます。市場の人たちと協力し、実現。焼き立てのパンを用意し、喫茶店の人が入れたコーヒーと一緒にふるまいました。「おいしい。温かい物をずっと食べていなかった」。涙を流して喜んでくれた女性がいました。メンバーもお礼を言われ、笑顔を見せます。「障害者が、被災者を支援できた。役に立つことができる」。考えが変わりました。
その後、「くらら」は、積極的に地域の人とかかわってきました。現在、小中高校生がパンを一緒に作ったり、メンバーが学校で講演したり、作業所同士で交流したりするなど、つながりは地域から全国に広がっています。
「炊き出しは出発点」と石倉さん。「人や地域とかかわるという道筋が見え、行動に移して、今がある。震災からの体験を忘れないよう心掛けている」と話していました。
当日、複数の作業所の職員たち、ボランティアが、コーヒーの炊き出しに加わります。午後6時半から。
(網 麻子)