教員によるNIE実践

「やさしい日本語」がつなげる防災・メディアの可能性

 今年1月22日、「新聞を使った『やさしい日本語』研究会(vol.9)」をオンラインで開催した。本研究会では、2025年7月に実施された多文化共生のための合宿での知見および阪神・淡路大震災当時の震災報道の経験を共有。本研究会の運営メンバーでもあり「入門・やさしい日本語」認定講師の栗山こまよ氏、神戸新聞社NIE・NIB推進部シニアアドバイザーであり、当時神戸新聞記者として大震災を経験、取材を続けた三好正文氏からの話題提供をもとに、沖縄・兵庫・大阪・京都など全国各地から集まった多様な職種のメンバー約15人とともに、熱心な議論を交わした。

生活の場から見えた「やさしい日本語」の必要性

 本研究会は、兵庫県を中心とした教員や「やさしい日本語」を推進するメンバーらで組織。昨年夏の「第30回NIE全国大会神戸大会」での実践発表を機に、県外地方紙などからの参加も増えた。

 研究会では、実際の合宿生活の様子を掲載したWeb記事(https://tabunka-care.jp/2025/07/12/interview_2/)をもとに具体的な場面や課題を共有した。

 特に参加者が注目したのは、避難所生活とも共通する「入浴のルール」や「食事のマナー」といった日常の所作についてである。 日本と海外で異なる習慣やルールを、いかに分かりやすく伝えるか。難しい表現を避け、直感的に理解できる「やさしい日本語」による掲示や声掛けを行うことは、単なる情報伝達にとどまらない。それは、互いの文化を尊重し合い、安心して共に過ごすための「ケア」としての役割を果たすものであると再確認した。

地域と立場を越えて響き合う「命を守りたい」という想い

 今回の議論をより深いものにしたのは、参加者がそれぞれの地域の歴史や原体験を、垣根を越えて心から分かち合った点にある。

 琉球新報社(本社・那覇市)からの参加者は、沖縄における「命を守る報道」の原点には、自然災害のみならず沖縄戦の凄惨な記憶があることを語った。

 それに対し、愛徳学園中・高校(神戸市垂水区)からは、新聞活用(NIE)を通じて広島県呉市の小学校と交流し、戦争と平和、そして命の尊さを学び合う活動が紹介された。 また、阪神・淡路大震災当時に学生として被災した経験を持つメンバーや、当時、被災した神戸新聞社と相互支援協定を結び、紙面発行を支えた京都新聞社の記者の立場からも、当時の切実な状況が語られた。 地域や背景、立場は違えど、「大切な人の命を情報によって守り抜きたい」という願いは共通している。互いの想いに真摯に向き合うことで、手法としての「やさしい日本語」を超えた、相手の心に寄り添う姿勢の大切さを全員で共有することができた。

次世代の参画と、未来へ向けた本質的な問い

 本研究会には、「やさしい日本語」の変換アプリを開発している大学生も参加した。合宿のような対面での触れ合いと、テクノロジーによるサポート。その両面から「伝わりやすさ」を追求する動きは、未来への大きな希望である。

 大震災から31年を前に、我々は改めて問いを立てた。「なぜ、新聞で伝えるのか」「なぜ今、やさしい日本語なのか」――。

 情報の網羅性や高い信頼性、そして事象を深く掘り下げる力を持つ新聞というメディアが、やさしい日本語を通じて社会の隅々にまで「安心」を届ける。それは、誰も取り残さない多文化共生社会を支えるための、一つの大きな責任ではないだろうか。この日交わされた温かくも力強い対話を糧に、これからも「伝わる言葉」の可能性を広げていきたい。

 次回研究会(オンライン)は3月12日19時半~21時の予定。ご案内はこちら

井上 幸史(姫路市立英賀保小学校校長、日本新聞協会NIEアドバイザー)(2026年2月24日)