※参加者の感想を追加しましたので、ご覧ください※
米田俊彦・愛徳学園中学校高校教諭(日本新聞協会NIEアドバイザー)
10月3日、兵庫県立洲本高校で行われたNIE公開授業に参加した。大石昇平先生が担当される「公共」の授業で、米ハワイのヒロ高校の生徒10人と洲本高校の生徒41人が出席した。日米の高校生が同じ教室で肩を並べ、最初はやや戸惑いながらも新聞を真ん中に置き、実際にめくり、手に取りながら意見を交わす光景はとても新鮮で、見学している私にとっても大きな刺激となった。
授業のテーマは「日本(地元紙と全国紙)とヒロ高校の生徒が持ってこられたアメリカの新聞(ハワイの地元紙)を比較する」というものだった。生徒たちは、日本の新聞にアメリカの記事がどれだけ載っているか、またハワイの新聞に日本の記事がどの程度掲載されているかを調べ、自国の扱われ方の違いを考えた。その結果、日本の新聞にはアメリカの関連記事が多く見られる一方、ハワイの新聞では真剣に英文を読み、懸命に探すも日本の記事はほとんど見当たらず、生徒たちは驚きの表情を浮かべていた。ただし、大谷翔平選手の記事はしっかり掲載されており、その存在の大きさを改めて実感する場面もあったのが印象的である。
さらに、それぞれの国レベルの記事の掲載のされ方には大きな差がある一方で、兵庫とハワイという「地元」同士を比べると報道量にほとんど違いがないことも分かった。その理由の考察や、互いをもっと知るために相互の新聞にそれぞれの地元を掲載するためにどうすればいいのか、何ができるかなどを考えてみる実践はどうかなど、見ていた私も大いに可能性を感じ、触発された授業であった。
これまで、国内の全国紙と地方紙を比較する授業は見たことがあったが、海外の高校生と顔を合わせて新聞を読み比べる取り組みは初めてであり、学びの広がりと進化、深まりを感じた。洲本市とハワイ島は以前より継続的な交流を重ねているとのことだが、新聞を使った交流学習が実現したのは、NIE実践指定校ならではの成果だと思う。生徒たちの真剣な表情や、時折見せる笑顔を目にしながら、紙の新聞がリアルな国際交流の橋渡しになる可能性を強く感じた。まさに NIEの新しい地平を見る思いがした。公共としての学びはもちろん、国語や英語、家庭、総合的な探究の時間や教科横断型の授業にまで対応できる幅広い学びの可能性を感じた。まさに NIEの真骨頂。次年度のハワイでの NIEが見られるなどこの取り組みのさらなる展開をぜひ見たいと心から思った。
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斎藤林太郎・兵庫県立洲本実業高校教諭
米ハワイのヒロ高校生との交流が、新聞を使って行われることに面白みを感じ、グループワークの教材としての新聞の利用に可能性を感じた公開授業だった。
最初は緊張からか、表情が硬い洲本高校生・ヒロ高校生が見受けられたが、大石昇平先生の指示のもと「新聞から最大数を探す」取り組みや、「見つけた最大数におはじきを置く」工夫・仕掛けで段々緊張もほぐれ、にこやかに情報交換を始めるようになるとともに、次第に難度が上がり考察が必要になる取り組みも、協力しあい楽しみながら両国の新聞メディアの特徴の違いを見出している点が印象に残った。
現在の勤務校は、海外の高校との交流はないため、同形態の授業実施は難しいと考えるものの、新聞を用いたグループワークについては、他にも様々な問いが立てられるため、今後利用した授業実践を検討したい。
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井上智仁・兵庫県立津名高校 地歴公民科教諭
米ハワイの高校生と洲本高校生が、互いの国の新聞を読み合うという興味深い授業展開であった。
少し気になったのは、日米の新聞購読事情の差である。日本は全国紙購読者が多く、米国の場合は地方紙が無数にあり、ローカル紙購読の方が優勢であるという文化的背景がある。
今回の授業では、読売新聞とハワイのローカル紙を利用して、日本の新聞はトランプ大統領含めて米国のことを積極的に報じるが、米国の新聞においては日本の記述がほとんどないため、日本の「米国への片思い」であると結論づけていた。授業が行われた時期を考えると、トランプの関税政策がどうなるか、製造業を中心とする日本の経済界も注視していたがゆえに記事が多かったとも言える。(逆に例えば内政重視であったバイデン政権の逐一を日本の新聞は積極的に取り上げていたのだろうかという問いも浮かぶ)
米国では地方紙はあくまでローカルな話題を深く掘り下げる(特に週末版はカルチャー、フード、スポーツなどそれぞれ別冊で発行している新聞もある)。一方でグローバル企業のビジネスマン、学者、国際機関職員などを購読層にもつ全国紙は、国際関係を含む世界についての記事も多く含まれる。
それぞれの購読者のニーズに大きな差があるわけであるが、国際面も充実している米国の全国紙を利用した場合でも、はたして同じことが言えるのか少し気になった。あとは日米の高校生が互いの国の新聞をみてどのような感想をもったのかも知りたかった。
