数人のグループで、各自が気になる記事を選び、ワイワイと話し合いながら壁新聞を作る「まわしよみ新聞」。兵庫ではここ数年、まわしよみ新聞作りのワークをきっかけに、学校全体でNIE活動を取り組むようになったり、日本新聞協会のNIE実践校に名乗りを上げたりする小中学校が相次いでいる。NIE活動の入り口としてうってつけだし、新聞作りと演劇を掛け合わせたユニークな取り組み(後述)も人気を集める。コモンズ・デザイナーの陸奥賢(さとし)さんが2012年に発案して以来、兵庫のNIEへの貢献度は計り知れない。感謝を込めて、やっぱり、「まわしよみ新聞」!
この9月16日、神戸市東灘区の甲南小学校で3年生52人が12班に分かれ、まわしよみ新聞を作った。使ったのは、神戸新聞写真ニュースや朝日小学生新聞、毎日小学生新聞、読売KODOMO新聞。夏の暑さ対策の記事を選んだ児童は「まだまだ暑い日が続くから大切なニュース」、米国のイラン核施設空爆を選んだのは「いいことか悪いことか分からないから」―。記事選びのセンスが光った。
戦後80年、ヒロシマと東京大空襲の記事を選んだ班は講師の私に尋ね、神戸空襲と沖縄戦の犠牲者数(それぞれ約8千人、20万人以上)も書き込み、「今はどうか」とロシアによるウクライナ侵攻に触れた。「新聞を手にするのは初めて」という子どもも多かったが、ワイワイと授業時間の90分間いっぱいまで取り組んだ。
同校は3年生のときのまわしよみ新聞作りを起点に、高学年で新聞活用を本格化させる。こうした展開が新聞好きの子どもたちを育て、今年夏の「NIE全国大会神戸大会」での公開授業(児童が推し記事を発表し合うシンブリオバトル)につながった。
兵庫の代表的なNIE活動校の一つ、姫路市立豊富小中学校(2020年年4月開校)も19年夏、大阪市で開かれた「近畿NIEフォーラム」で、学校統合前の豊富小学校の教諭らが、陸奥さんの指導を受けて新聞を製作。ノウハウを持ち帰って児童たちに教えたあたりから、NIE熱がグングン高まった。
神戸市以内には、兵庫県NIE推進協議会による「まわしよみ新聞」作りの研修に参加した学校司書が主導し、NIE実践校になった学校もある。実践指定校にならないまでも、同協議会に「まわしよみ新聞をやってほしい」とリクエストする小学校は今も多い。
約10年前から、まわしよみ新聞作りと演劇を掛け合わせたワーク「壁新聞を演じてみよう」を行っているのは、尼崎市の県立劇場ピッコロシアター。今年8月のワークには20~70代の23人が参加し、自分たちで作った壁新聞にヒントを得て脚色した劇を創作、ユーモアたっぷりに演じた。興味深かったので、まわしよみ新聞作りの講師を務めた私も劇に参加した。
「まわしよみ新聞」の効果はいろいろあるが、ネット時代の「情報の偏食」を防ぐアナログな実践であり、陸奥さんが言う「『新聞+他者との会話』というメディアミックス」は、大人も子どもも楽しい時間を共有できる。全国紙、地方紙、スポーツ紙、産業新聞、子ども新聞など、複数の新聞を使えば「情報を読み解く力(メディアリテラシー)も育つ」と感じている。
三好正文(兵庫県NIE推進協議会事務局長)(2025年9月22日)
[写真㊤]まわしよみ新聞を作る3年生児童たち=神戸市東灘区、甲南小学校[写真㊧㊦]明石市立中崎小学校でもまわしよみ新聞を作った。「どこにどんな記事を置くか、めっちゃ考えた」と児童=今年6月20日[写真㊨㊦]ピッコロシアターが作成した「壁新聞を演じてみよう」のポスター。今年夏の「NIE全国大会神戸大会」に出展された ポスター. pdf
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