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【神戸大会リレー寄稿】⑫ 定時制高校のNIE

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 兵庫県立湊川高校は、働きながら学びたい人のための定時制学校で、間もなく創立100周年を迎える。時代とともに多様な生徒を受け入れる同校のNIE活動についての実践発表を振り返る。 私は講評者として参加した。

 発表した住本拓自教諭は、校長室で2年間(2024~25年度)のNIE活動が始まり、そのプロジェクトチームのメンバーになることを告げられた。「本校で実現可能なのかという不安を抱えながらのスタートだった」と振り返りつつ、生徒たちの新たな「気づき」を引き出し、主体的に考え、表現できる機会にしようと考えたと話した。

初年度の課題とアンケート結果

 24年度の課題は「生徒へのメリットの伝え方」と「目標値の設定」とし、事前アンケートを行った。その結果、約8割の家庭が新聞になじみがなく、今まで一度も新聞を読んだことのない生徒が4割いることが分かった。さらに、SNS(交流サイト)を含めた時事ニュースを確認する頻度が週1回以下の生徒が半数以上だと判明した。

 そこで、時事ニュースを確認する頻度が週5回以上の生徒を2年間で50%以上にする数値目標を設定。具体的な取り組みとして、各教科での新聞を活用した授業の実践▽プロジェクトチームとして、今月のおすすめ記事の掲示と、コグトレ(認知機能を強化する)教材の作成―の3つを推進した。

 沖縄への修学旅行の事前学習の一つとして、兵庫県NIE推進協議会の記者派遣事業「沖縄と兵庫のつながりについて」の講演の報告があった。各教科での取り組みが、生徒にとって記事を丁寧に読む習慣や考えるきっかけになっていると感じられた。

 先生方の新聞記事を使った教材やテスト、生徒に読んでもらいたい記事の共有(掲示)、デジタルでの具体的な取り組みについて報告があった。教員自身も選んだ記事を楽しみながら、生徒や他の教員と意見や感想を気軽に出し合い共有することは、新聞を身近にすることにつながる活動であると感じた。

成果と課題

 事後アンケートでは、生徒のうち4割が時事ニュースに触れる機会が増えてはいるが、依然として変化が見られない生徒も多い▽ニュースを確認する頻度も16%から2.2.7%に伸びたが、目標に向けてまだ課題があることが報告された。アンケートの記述には「自分のペースでゆっくり読める」等の新聞のプラスのイメージが増加しているなど、今後につながる報告で締めくくられた。

質疑応答と今後

 実践発表での参加者との意見交換は活発で、「今月のおすすめ記事の掲示」に教員だけではなく、学生も感想やコメントを書いた付箋を貼ってはどうか、教科の取り組みでは教材に使う記事のルビに関して、新聞にもルビを振るべきではーという提案もあった。

 定時制高校で学ぶ生徒が時事ニュースに触れる機会が少ないという現状に対し、新聞に触れる、内容を読み、社会とのつながりを意識する活動の大切さを再認識した報告だった。

河辺有希生(流通科学大学特任講師)(9月11日)

[写真説明]熱心に聴講する参加者=8月1日、神戸市東灘区岡本8、甲南大学岡本キャンパス