「自分らしく学び、つながる教育」実現へ
私が教育長を務める姫路市では、日本語指導が必要な児童生徒が増加している。来日直後や、来日して数年たった児童生徒だけでなく、日本生まれ・育ちの児童生徒であっても、学年相当の日本語言語能力が不足し、学習活動に支障をきたすケースもある。
「すべての人が自分らしく学び、つながる教育」を目指す姫路市において、外国人児童生徒等に対する教育は重要なテーマの一つとなっている。
「第30回NIE全国大会神戸大会」で私が助言者として関わったのは、姫路市立あかつき中学校の実践発表だ。2023年4月に開校した兵庫県内4校目の夜間中学校で、幅広い年齢層で、日本を含めて5つの国にルーツを持つ生徒が通っている。世代も文化も言語もさまざまな生徒たちが、新聞を活用することで、身近で現在の生活につながる事柄だからこその共通点を見いだし、学びにつなげている。発表では、新紙幣に関する新聞記事を取り上げ、肖像に採用された人物や紙幣に採用された技術に発展させていく様子などが説明された。
発表の中で、NIEのメリットについて2点挙げられていた。一つは、好機を逃さず学習できることだ。実際、新紙幣についての授業は、発行の翌日に行われており、生徒の興味関心が最も高いタイミングで実施されている。
もう一つは、身近な話題を共有できる点だ。経験や知識を交流しながら学習を深められるという利点が示されており、ここには「すべての人が自分らしく学び、つながる教育」の実現に向けた希望を強く感じた。
同じ事象を見ていても、人の感じ方はさまざまだ。育った環境や文化が異なればなおさらで、それが可視化された取り組みが発表の中にあった。それは姫路・灘のけんか祭りの記事を読んで、見出しを考えるという授業で、「神輿(みこし)激しくぶつけ合わせる」といった事象を表現する文言だけでなく、「神様にドスン」「人生の憂さ晴らし」など、新鮮なまなざしによる受け止めが披露されていた。
日本語指導というと、どうしても画一的な学習になってしまう可能性がある。しかし、身近で共通の話題を入口に、それぞれの多様な受け止めを共有し合うことは、日本語の習得に寄与するだけでなく、それぞれの違いが力となり、学習者同士がお互いに視野を広げあう充実した学びにつながると感じた。
久保田智子(姫路市教育長)(9月3日)
[写真㊤]あかつき中学校の実践発表。NIE活動に取り組み夜間中学は全国でも数少ない=8月1日、甲南大学岡本キャンパス[写真㊦]当日出展された、あかつき中学校のポスター「総合的な学習の時間『新聞記事をつくろう』」
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