実践発表会の記事一覧

 2014年度兵庫県NIE実践発表会(県NIE推進協議会主催)が1月24日、神戸市中央区東川崎町の神戸新聞社会議室で開かれました。学校関係者ら約40人を前に、県立伊丹高校、姫路市立菅野中学校、芦屋市立山手小学校の教諭3人が日頃の取り組みを披露しました。

 県内では同年度、日本新聞協会の認定を受け、現在22校が実践しています。
 発表会は、会長の杉本健三・山手大教授・摺河学園学園長のあいさつに続いて、県立伊丹高校の桝田安史教諭が登壇し、生徒たちが一定期間、内外のさまざまなニュースの中から特定のテーマを決めて追跡、「定点観測」している取り組みを紹介しました。
 定点観測には、2年生のうち5クラス計約200人が参加、班ごとに新聞記事をテーマ別に分析し、要約を発表するコンクールを開催しました。昨年10月2日には学級内予選を勝ち抜いた計10班が、関心を持った多くの記事を理解した上で、多彩な事象を順番に説明しました。ジャンルは幅広く、身近な「高校教育」から世界に目を向けた「環境」「国際紛争」まで、難しい問題にも切り込み、分かりやすく解説しました。
 桝田教諭は「生徒の理解力は高い半面、読むのが遅い弱点が判明したため、社説やコラムを多数読ませて訓練を積んだ成果が表れました。今後、全校にどう広げていくのか。来年度からどう継続していくのかなどの課題が残っています」と説明しました。
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 菅野中学校の高井浩子教諭は"アナログ媒体"にこだわり、手作りの模造紙教材を次々と繰り出し内容を説明しました。「『見る・読む・考える』新聞記事」と題された実践には、3年生102人が参加。単調さを避けるため、新聞で何ができるか~ナイスショット写真▽記事比較とマイナーニュース▽この人を見よ▽五七五・五七五七七~新聞で文芸▽記事を比較しよう▽記者の話を聞こう▽新聞に意見す―の7項目に分けてアプローチしました。
 「ナイスショット」では、良い写真を探し、内容と良い理由をまとめ、「記事比較」では、マイナーニュースを見つけ出し、なぜ1面トップにならなかったのか―などに思考を巡らしました。高井教諭は「新聞には全教科に関する記事が多数掲載されている事実を知らせるとともに、読むだけでなく常に『考える』を意識させて書かせたことがいい結果を生みました」と話しました。
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 山手小学校の森教諭は、子どもたちに新聞に興味を持たせ、自分たちの生き方につなげていく試みとして6年生を対象に取り組みました。第一に「いつでも新聞を手にできる環境」を整備するため、全校生が読めるようまず図書館に配置、読み終えたらクラスに持ち帰り、朝の10分間読書タイムや休み時間に誰でも手に取れるようにしました。
 しかし「記事の7割以上に興味がない」とのアンケート結果を踏まえ、無理をさせずに興味ある記事を見つけさせる必要を実感しました。その対策として、リライトするなどの教材化をした上で授業化すれば道筋がつくと気付きました。記事を選ぶ際には、身近で、調べや活動ができそうで、みんなが考えることにより内容が深まる素材を見極めなければなりませんが、とりわけ「子どもによる主体的な取り組みを保障すること」の大切さを強調しました。
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 < 講 評 1 >
 県教委・桂敦子主任指導主事/家庭や地域と連携を
 小・中・高校とも子どもの発達段階に応じた特色のある取り組みがありました。「自主的な活動」を基盤として、新聞記事を通じて子どもたちの生活や人生と世の中の動きをつなぐことを目指していました。
 県立伊丹高では、自立に向けたキャリア形成につながる実践で、テーマも政治、経済、国際問題など幅広く、「定点観測」という手法をうまく活用しながら、社会で必要となる論理的思考力や表現力を高める効果的な実践内容でした。
 姫路市立菅野中では、社会にあふれる多様なメディアの中から、新聞にしかない魅力や特色を生かした記事比較、写真や人物の活用により、生徒が新聞の良さを理解したり、新しい発見をしたりするきっかけづくりを通して、世の中をさまざまな角度から見る工夫がありました。特に指導教師の豊富な経験と実績に裏付けされたアイデアあふれる実践が目を引きました。
 芦屋市立山手小学校では、子どもたちの目線に立って、小学生に新聞に興味を持たせ、新聞から学び取り、自分の生き方に取り入れる活動を実践しました。小学生でも、自分の将来につながるような記事に興味を持って取り組み、心の琴線に触れる言葉が、感性や思考を刺激し主体的な学びにつながる貴重な発表でした。
 現在、国により次期学習指導要領の改訂に向けた検討が行われており、「何を教えるか」に加え「どう学ぶか」という学びの質や深まりが一層重視され、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習方法が注目されています。
 今後とも「生きる力」を育み、こころ豊かで自立した人づくりを進めるために、報道機関はもちろん、家庭や地域社会との連携を深めながら、新聞を活用した教育のさらなる進展を望みます。
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 < 講 評 2 >
 神戸市教委・佐藤和一指導主事/活用・応用力の育成を
 新聞は教育教材として発達段階に応じて多種多様な活用の仕方があり、児童・生徒の身近な話題や社会の出来事に触れながら、自分たちの問題として考え、学び合う生きた教材になっています。
 全国学力学習状況調査では常に「活用力の弱さ」が指摘されます。文科省は、この課題を解決するため「探究的な学習のプロセス」を提唱していますが、新聞活用の授業で効果的な手法でしょう。
 山手小は、新聞活用の授業に三つの視点を明確に示し、目標がはっきりしているところがいい。さらに「話し合い」の場を設定し、児童の言語活動を取り入れているところを評価したいと思います。特に「興味ある記事に感想を書く」実践は個の学びがあり、グループでの話し合いも持ち、壁新聞にまとめる活動です。記事の読み方・感じ方と事象の見方に深まりを感じます。
 菅野中は、ユニークな発想のオンパレードで、担当教師の記事に関する鋭い視点や観点に驚きました。個の学びをグループや学級全体に反映させ、議論する場を設定するとさらに学びが深まるでしょう。「意見に意見する」は、さらに発展させると面白いと思います。
 県立伊丹高は、課題設定からまとめ・プレゼンテーションまで探究的な学習になっていて素晴らしい。特に、グループで収集した50枚の記事を「感想・結果・見通し」に沿い、3~6枚の記事に絞る作業は、思考・判断・表現力を育成する質の高い取り組みです。
 新聞を活用した授業づくりは、新聞を読み、話題を提供できる教師であり続けることが求められます。記事の教材化を図り、指導の道筋を明確にした上での継続が児童・生徒の興味を深め、学びを豊かにしていきます。さらなる学校の広がりと「活用力・応用力」育成の充実を期待します。
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