セミナー・発表会・公開授業

【寄稿】飾磨中部中学校の公開授業を終えて ➁

※10月2日の姫路市立飾磨中部中学校の公開授業を担当した皆光潤教諭に、ねらいや展望をご寄稿いただきました。

           新聞から読み取る「対立」と「合意」
                          授業者:皆光 潤

◎ねらい
 生徒にアンケートを取ったところ、家で新聞を取っているは約40%で、そのうち毎日読むは0%、週に1度程度読むは約11%、であったことから、新聞に触れる機会も少ないこと、新聞に触れる機会があるのに触れていない生徒が多いことが分かる。また「ニュースの情報源は何か」の質問に、新聞と答えたのは約3%で、テレビは約22%、インターネットは約74%であった。その一方で、「信用できるメディアは何か「の質問には、新聞と答えたのは約40%で、テレビは約44%、インターネットは約15%であった。生徒の主な情報源はインターネットであるが、信用できる情報ではないとの認識を持っている。
 社会ではいつの時代も、あらゆる場所で「対立」があり、その度に「合意」が図られる。新聞記事は今起こっている「対立」や「合意」を事実に基づいて、多面的・多角的に報じている。この授業は、「対立」・「合意」が何であるか、新聞を読み解く中で理解を深めるとともに、新聞に関心を持つ生徒を増やすことを目的としている。
 社会科は暗記科目だとよく言われるが、そうではない。授業中に学習した「対立」や「合意」といった用語(概念的知識)の解説に終始する授業は、社会科嫌いを生む要因である。概念的知識とは社会における公式・法則であり、社会における具体的事象を当てはめ、一般化することで思考力を高めることができる。社会科的思考が働くことで、自分の生きている社会をより深く理解でき、関心を持つことができる。また、そのことが国民一人一人の社会参画を促すことにもつながる。この授業を通じて、新聞に興味を持つ生徒が少しでも増え、社会問題を自分事として捉え、社会を主体的に生きる公民の育成につながればと思う。

◎実践内容
 3年生の生徒30人を対象に、新聞記事から「対立」と「合意」を読み取り、その背景にあるものや今後の見通し、調べて思ったことなどを班ごとにまとめ、プレゼンする授業を行った。①個人で自分の興味を持った新聞記事を1つ選び、「対立」「合意」のポイントを個人用ワークシートにまとめる。②班員(3~4名)に紹介する。その後、班の中で他班にプレゼンする記事を選ぶ。班員でさらにニュースを追求し、プレゼン用ワークシートを協力してまとめる。③ワークシートを基にプレゼン用のスライドや発表原稿を作成する。④すべての班のワークシートと新聞記事を全生徒に配布し、目を通して他班のプレゼンもある程度理解する。全体でのプレゼンをおこなう。
 4時間の構成で実践したが、公開授業を行ったのは②であった。新聞の見出しから「対立」を読み取るのが難しく、苦戦した生徒が多かったが、それぞれが何らかの対立を含む記事を紹介した。「レバノンのイスラエル爆撃」や「リニア建設をめぐる静岡県とJR東海の対立」など、深い歴史を紐解く必要があるものや地下調査に関する高度な科学的知識が必要とされるものなど、難解なテーマを選んだ班もあったが、こちらが何を明らかにすべきか、どのように検索すべきかなどのヒントを与えていく中で、何をすべきかを思いついた生徒が班員に指示を出し、発表の準備を進めていた。

◎さらなる発展へ
 今回の実践のほかにも、1つの記事を多面的、多角的にみんなで検証することや同じ出来事の新聞記事を各新聞社の比較することなど、さまざまな手法が考えられる。今回の実践とは逆にこちらが意図的に提示した複数の新聞記事から、授業で学習する概念的知識を抽出する手法も考えられる。どの単元で、どの手法を用いて学習させるのが最も効率的なのか、これからの実践の中でも探っていきたい。ともあれ、生徒と新聞の距離をいかに近づけるかも課題である。廊下に設置しているだけでは、手に取る生徒も少ない。本校では、新聞記事の書き写しや感想を書くなどの取り組みをしているが、まだ不十分である。いかに新聞を身近なものとするかの取り組みも模索していく必要がある。

◎全体の感想
 新聞にふれる機会が少ないこともあり、新聞から読み取ることに苦戦している生徒が多かった。特に語彙力に乏しい生徒には、新聞に使われている言葉の壁にぶつかり、読む気力を失う者も少なからずいた。その一方で、写真やグラフから興味を持つ生徒、インターネットなどでも話題になっている記事を選ぶ生徒、中にはある記事の出来事に自分の親類が深く関わっているという生徒もいた。一度そのニュースを理解すれば、それに関連するニュースや類似するニュースにも興味を持ち、再度新聞を手に取ることに繋がる。新聞にはそれ以外の記事もたくさんあり、次第にそれが目に入るようになり、視野が広がっていく。また、新聞を読む中で、これは授業で習ったあのことと関連していると気付けば、既習事項が自分のものとなり、それを活用する力(=思考力)にも繋がっていく。今回の研究授業を受けて、社会科の思考力を高めるうえで、新聞を利用することは大変有益であることを実感した。