教員によるNIE実践

【寄稿】「やさしい日本語」公開授業に寄せて

240917igawadaiyasaiinihonngoihara.jpg 「やさしい日本語」とは、外国人や小さな子どもも理解しやすい日本語のことである。よく新聞は「中学生でも理解できるよう書いてある」といわれるが、やや難解との印象を受ける。兵庫県を中心とする教員や多文化共生サポーターの有志で8月結成した「新聞をつかった『やさしい日本語』研究会」による初の公開授業が9月17日、私が勤める県立伊川谷高校(神戸市西区)で行われた。 県内外の教員や日本NIE学会のメンバーら約20人が参加した。特に外国籍の生徒が多い夜間中学の先生に数多く参加いただいた。

 本校の「やさしい日本語」の取り組みは4年前にさかのぼる。コミュニケーション類型の1年生を対象に毎年度、「やさしい日本語」を用いた新聞記事の書き換え講座を実施、生徒が多文化共生を考えるNIE活動を実践してきた。

 公開授業は2024年度1回目の書き換え講座で、「やさしい日本語」のコツを多くの方に知ってもらおう--と企画。入門・やさしい日本語認定講師の塩川雅美先生(龍谷大学グローバル教育推進アドバイザー)に 、1年生約30人に指導していただいた。

 公開授業の冒頭、同研究会世話人である私(福田)が「やさしい日本語」について説明。今後、日本では「日本語を母語としない人」とのコミュニケーションがますます重要になること、新聞は一覧性や網羅性など優れた面があり、メディアリテラシーの獲得に有効だが、記事を書き換えることでより理解が深まり、他者に伝わりやすくなることなどを話した。

 塩川先生の授業では、「ワセダ式ハサミの法則」にもとづいた文章の書き換えについて説明があった。ワセダ式とは、わけて言う▽せいり(整理)して言う▽だいたん(大胆)に言う。ハサミの法則とは、はっきり言う▽さいご(最後)まで言う▽みじかく(短く)言う―という意味。生徒たちは書き換えのワークにも取り組み、興味が尽きない様子だった。

 例えば、コンビニの店員から「レジ袋は要りますか」と尋ねられ、「大丈夫です」と答える光景をしばしば目にするが、「要りません」の方が断然伝わりやすい。

 生徒たちは、今後3回の授業で、生徒自身が選んだ新聞記事を「やさしい日本語」を用いてA5サイズのはがき新聞にまとめ、伝えたい内容の表現法を考える▽必要な情報を取捨選択する▽読み手を意識した見出しやレイアウトを考えるーなどを学ぶ。できあがったはがき新聞は生徒同士で評価し合い、優秀作の発表につなげる。

 同研究会では今後、授業公開やオンラインを活用した勉強会を年に数回予定している。

 本校は日本新聞協会のNIE実践校に指定いただいている。これからのNIE実践では「教師が児童生徒に教材として新聞を提供するNIE」を一歩進め、「児童生徒が自ら興味関心を持った記事を活用するNIE」を 展開したい。そのため「やさしい日本語」の研究を深化させたいと考えている。

 現在、兵庫の夜間中学では日本語を母語としない生徒への教育活動が行われているが、「やさしい日本語」の取り組みは、多文化共生の観点からどの学校の児童生徒にも身に付けてほしいスキルだと感じている。

福田 浩三(県立伊川谷高校主幹教諭、日本新聞協会NIEアドバイザー)(10月3日)

[写真説明]塩川先生から「やさしい日本語」の話を聞く生徒たち=9月17日、県立伊川谷高校

※伊川谷高校による「新聞を使ったやさしい日本語」の取り組みは、来年夏の「第30回NIE全国大会神戸大会」で実践発表される予定です。