2024年8月アーカイブ
教育現場で新聞を活用するNIEの第29回全国大会京都大会(日本新聞協会主催、京都府NIE推進協議会、京都新聞社主管)が8月1、2日、京都市で開かれた。「探究と対話を深めるNIE」を大会スローガンに開催。全国から教育・新聞関係者ら約1200人が参加し、基調講演やパネル討議、公開授業、実践発表を通じ、NIEの可能性を探った。
来年夏の神戸大会を控え、兵庫からは教員ら約80人が参加、関心の高さがうかがえた。参加者の感想を紹介する。
古寺和子・姫路市立豊富小中学校(後期課程)教諭
最高気温が38度を超えた京都でNIE全国大会が行われた。外も暑いが会場の熱気も想像以上で、圧倒されながら2日目の公開授業を見学させていただいた。
多様性を学ぶ授業では、国際女性デー(3月8日)における全国紙・地方紙・海外紙の1面記事での取り上げ方を比較し、発信者にどのような意図があるか、海外研修に参加した生徒の実体験もふまえながら中高生が意見を述べていた。
新聞を活用して「随筆」を読む授業では、時代背景やさまざまな人の思いを知るために、真珠湾攻撃の翌日の新聞、その10年後、50年後の新聞を活用していた。それぞれの公開授業ごとに観客は100人を超えていたのではないだろうか。そんな中で生徒が自分の言葉で堂々と対話している姿に感心させられた。
新聞は「今」を伝えくれる。さまざまな新聞を読むことで、自分のいる場所や時代とは異なる「今」を感じ取ることができる。その利点を授業の中でどのように活用していくか、来年の神戸大会に向けて考えていきたいと思う。
三嶋祐貴子・明石市立大蔵中学校教諭
昨年の松山大会に続き、京都大会でもNIEの活動において、新聞とICTの両立がはかられた取り組みが多かった。
さまざまな分科会があった中でも、京都先端科学大学附属中学高校が行った「多様性を問う 新聞記事のジェンダー表現」では、ニュースパーク(日本新聞博物館)=横浜市=の協力のもと「国際女性デー」にあたる3月8日の日本の国内新聞、海外の新聞の報道のされ方を比較し、各国・地域の特徴を調べ、そこから自分たちが疑問に思った「ジェンダーギャップ指数とGDPの相関関係」を発展して調べ、発表していた。
新聞だけでなく、生徒の海外研修を踏まえた問題提起がされており、基調講演で歴史家の磯田道史氏が言われた「AIにはできない体験」を通じた学びが生まれていた。
今回の研修で得た学びを生かし、ICTやAIが進歩している現代、なぜ新聞なのかということが問われ続けている中で、さまざまなことを模索し、新聞を使うことで生まれる対話を生かした授業ができるように取り組んでいきたいと感じた。
福田浩三・県立伊川谷高校主幹教諭(日本新聞協会NIEアドバイザー)
NIE京都大会では他都道府県からもポスターセッションに参加できるということで、私は大会実行委員会からの正式な案内が公開されるとほぼ同時に申し込んだ。
実際にポスター発表を行って驚かされたのは、聴きに来られた方々の熱量の大きさ。私は生徒が書くことを主体にしたはがき新聞の活用実践について報告したが、「なぜ、はがきサイズがいいのですか?」(返答:1コマの授業で完結できる量)、「はがきは本物ですか?」(返答:本物のはがきを年2回、他は無料で助成を受けているはがき新聞のセットを使用)、「繰り返すのがポイントなのですね」「うち(の職場)でも使わせてください!」など、教育関係(小~高まで幅広く)やメディア関係の方々を中心に、とても多くの意見交換ができた。
5時間という時間が本当にあっという間に感じた。「見る」「聴く」だけの大会にならず、「自由に意見を交わす」機会が得られた今回のポスターセッションへの参加は、私にとってとても学びの多き時間となった。
佐々木浩二・県立網干高校教諭(日本新聞協会NIEアドバイザー)
京都大会のスローガンは「探究と対話を深めるNIE」となっており、各学校での探究的な学習活動に注目して参加した。
2日目の分科会、第1部の実践発表の京都市立塔南・開建高校では、の中村顕教諭から「地理探究」での実践発表で、日経新聞・BBCNewsJapan・日本海事新聞を活用した地理探究や「総合的な探究の時間」の授業実践を聞いた。授業では「問いから始まる授業」をコンセプトとして、新聞記事から自ら考え、学ぶ力を育んでいる授業実践をされていた。
第2部では、亀岡市立詳徳小学校の東哲平教諭から総合的学習の時間で、「地域で取材・交流柏原平和池水害と私たち」の実践発表を聞き、地域で起こった災害を題材に、先人の苦労を後世へと伝える取り組みを発表していた。特に小学生が地域を取材しながら、現地を調査する総合学習の活動は、中学校や高校でも「防災・減災」という視点で、NIE実践が広がる可能が大いにあると考える。
自校での総合的な探究の時間が、NIE実践とともに深化していけるようにしたいと考えている。生徒や教師・保護者・地域社会にも多くの気付きや示唆を与える活動になると考えている。
来年のNIE全国大会の開催地が神戸ということで、兵庫県の強み、自校での取り組みの特徴は何かということを考えながら発表を拝見させてもらった。来年、兵庫県に来てよかったと言ってもらえる全国大会にしたい。
和歌山県内の教員らを対象にした、NIE(教育に新聞を)の実践セミナーが7月30日、和歌山市であった。防災・減災とNIEについてのシンポジウムでは「新聞から災害の教訓を学んでほしい」などと話し合われた。
県NIE推進協議会が主催、紀伊民報など後援。兵庫県NIE推進協議会の事務局長で、神戸新聞記者として阪神・淡路大震災(1995年)を取材した三好正文さんが、同震災について話した後、「防災・減災とこれからのNIE」をテーマにしたシンポジウムがあった。三好さんと、此松昌彦・和歌山大学教授、紀伊民報の川本敦史編集局長が登壇。和歌山県NIE推進協議会会長の舩越勝・和歌山大学教授が司会した。
三好さんは「阪神・淡路大震災で被災した新聞社として、災害の文化(災害からの教訓や考え方)を発信していくことが求められている」と強調。大災害発生時に一人でも多くの命を助けることが新聞の役割だとし「NIEを通じ小中高校生に伝えていくことが大事だ」と話した。
此松教授は大手新聞社の協力で、東日本大震災の報道写真を使った防災研修用のDVDを作成した取り組みを紹介。「まず感じてもらうことが大事。災害に備えないといけないという動機付けになり防災教育につながる」とした。また「地元紙には(災害について)教訓になることがたくさん詰まっている」ともいい、新聞は記録になる役割も大きいとも述べた。
川本編集局長は「自分たちが住む地域で過去にどんな災害や被害があったのか、特に地元紙に詳しく載っている」と話した。災害時に中高生の力が期待されているとし「何を準備し、どういう行動を取るべきかなど、過去の災害から学んでほしい。その教材として、新聞を用いてもらいたい」と呼びかけた。
セミナーには教員ら約30人が参加した。
この日は、他にNIE実践報告として県内の中学校3校と高校1校の教員がそれぞれの取り組みを発表した。=8月1日付紀伊民報社会面
[写真説明]NIE実践セミナーで「防災・減災とこれからのNIE」について討論する登壇者(30日、和歌山市で)