セミナー・発表会・公開授業

NIE全国大会・札幌大会報告 北海道独自のテーマや時宜にかなった内容

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  第26回NIE全国大会のパネルディスカッション=8月16日、札幌市(北海道新聞社提供)

    教育現場で新聞を活用するNIEの第26回全国大会(日本新聞協会主催)が8月16日、札幌市で開かれた。スローガンは「新しい学びを創るNIE~家庭・教室・地域をむすぶ」。新型コロナウイルス対策で、昨年の東京に続くオンライン開催となり、基調講演やパネル討議、道内の教員らによる公開授業など分科会がライブやオンデマンドで配信された。

   当日は全国各地から教員やNIE関係者約千人(うち兵庫からは24人)が参加登録した。分科会は、アイヌ民族や道央の日本遺産「炭鉄港」といった北海道独自のテーマや、パラリンピック選手の生き方に学ぶ--など、時宜にかなった授業内容が目立った。 

 兵庫県NIE推進協議会事務局からは4人が視聴した。分科会の中から、心に残った公開授業と実践発表を報告する。

   ▼札幌市立栄南小学校 パラ選手の思いに触れて 

    札幌市立栄南小学校4年生は、上野裕子教諭による道徳科の公開授業で、東京パラリンピックのトライアスロン選手、谷真海(まみ)さんの生き方を通し、夢や目標をもつことや、周りの支えや励ましの大切さを学んだ=写真㊦は動画の一場面。
 上野教諭は、谷さんが大学時代に右脚に骨肉腫が見つかって切断、義足になって夢を失いかけたときに出合ったパラリンピックで活躍する話を紹介。「谷さんが手にした大切なものは何」と問い掛けると、児童たちは、あきらめない気持ちやスポーツが好きなこと、チャレンジする心などと答えた。
 続いて谷さんのインタビュー記事を読み、見出しの「信じてくれた」のは誰かを考えた。谷さんが頑張れたのは、谷さんを信じ「神様は乗り越えられない試練は与えないよ」と声を掛けた母親の存在だった。児童たちは、ほかにも谷さんを支えた人を考え、義肢装具士や医師、仲間やライバル、ファンを挙げた。
 学びのふりかえりでは、自分を応援したり支えたりしてくれる人も考え、両親や一緒に頑張る仲間が挙がったという。上野教諭は「本校はパラリンピックを広め応援する発表活動などに取り組んでいる。調べ学習の一つとして、新聞記事を扱い、選手の願いや思いに触れることで、児童の興味関心を引き出したい」と語った。

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    ▼日高町立門別中学校 アイヌ民族との共生とは

 先住民族アイヌとの共生や、アイヌが置かれてきた格差の問題を考えた実践発表が2件あった。その一つが、新ひだか町立三石中学校の川上知子教諭が「アイヌ文化学習とNIE」と題し、前任の日高町立門別中学校で行った取り組みだ。
 北海道の魅力を道外の人に伝えようと、同校2年生が、白老町にあるアイヌ文化施設「民族共生象徴空間(ウポポイ)」での体験学習の成果を、それぞれ新聞にまとめた。
 北海道NIE推進協議会の上村尚生NIEコーディネーターが、記事の書き方や見出しの大切さなどを指導。完成したB4判の新聞は、ウポポイの役割や厳しい冬を生き抜くチセ(住居)の工夫、マダラや鹿肉の伝統料理などを紹介。紙面は、交流のある青森市内の中学生にもオンラインで見てもらった。
 3年生の授業では、14歳の少年の成長を通し、アイヌの人々の今を描いた映画「アイヌモシ●(小文字のリ)」(昨年公開)を取り上げた。生徒は、福永壮志監督のインタビュー記事を読み、印象に残った言葉に線を引くなどして監督の思いに触れた。
 川上教諭は「記事を効果的に活用することが、生徒たちの、アイヌ民族と共生するため自分ができることを考える姿勢につながった」と語った。

    上村尚生・北海道NIE推進協議会NIEコーディネーターの話 (「アイヌ文化学習とNIE」をテーマにした)門別中学校・北海道北見北斗高校の実践発表は、新聞を活用することで、アイヌ民族の歴史・文化に関する学びの視野を多角的に広げることができた実践といえます。小学校でのアイヌ民族の学習経験を生かした、体系的な学びへとつなげていけるのではないでしょうか。

  <兵庫からの参加者の感想>

  近藤隆郎・神戸山手女子中学高校教諭 元プロ野球選手、アスパラ農家、漁師といった多彩な面々が学校関係者とのあいだで繰り広げられたパネルディスカッションがおもしろかった。家庭や地域の生活のなかで子どもたちが新聞と〝自然に〟つながっていくことの大切さを再認識! 話の中で紹介されていた「伝える技術はこうみがけ!―読売KODOMO新聞・読売中高生新聞の現場から」(中央公論新社)には、NIEのみならず授業のヒントが満載で、皆さんにもオススメ。まだの方は、配信期間中にぜひ視聴を。

  井上佳尚・姫路市立豊富小中学校教諭 昨年度の東京大会に引き続き、オンラインでの全国大会参加となった。今回、特に興味を持った発表は、北海道という広域な土地が持つ地域の課題や良さを新聞から読み解くという真駒内中学校の取り組みと、アイヌといった固有の文化を新聞から学び、発表する門別中学校の取り組みだった。くしくも私たちが住まう兵庫県は五国と呼ばれるほど、その県域は多様であり、地域の課題や良さも多岐にわたっている。これら2校の取り組みから学んだことがたくさんあった。

 これらの発表や実践をもとに、わが兵庫県でも「多様性+一体感=新聞」を意識した実践を深めたいとあらためて感じるとともに、来年度は若山牧水の故郷、宮崎の地でさらなる研さんを深められることを願っている。

 米田俊彦・愛徳学園中・高校教諭 昨年に引き続いて参加しました。かつて住んだことのある北海道での全国大会で、ぜひ現地参加したいと願っていましたが、コロナ下でも関係者のご尽力によりオンラインで無事開催されたことに安堵しました。本当にありがとうございました。

  分科会がオンデマンド配信となり、日ごろなかなか参加できない他校種や他教科のものも聴くことができました。校種を縦断し、教科を横断することで視野を広げられ、大変刺激的で興味深く参加できました。特に、北見北斗高校の現代社会「アイヌ民族の格差問題」は格差についてあらためて考えさせれました。「金融学習とNIE」の故・中村哲先生の写真展をめぐる課題探究やクラウドファンディングには可能性を感じました。「学校図書館とNIE」は、各学校にある学校図書館が主体となって行うNIEの実践発表で、メディアセンターとしての図書館の可能性を感じることができ大変参考になりました。

  新聞の紙面は社会全体を写す鏡でもあり、その範囲は極めて多岐にわたっています。それぞれの詳細やデータを入手するにはネットやSNSも用いられますが、部分から全体を考え、時に俯瞰(ふかん)し、メタ認知レベルで物事を捉え、物事の意味を考えるには「紙の新聞」というメディアが果たす役割はますます重要になっていると感じました。北海道での学びを今後に活かしていければと強く思いました。

  中嶋 勝・尼崎市立南武庫之荘中学校教諭 1人1台タブレットが配布され、コロナ禍でリモート授業の必要性が高まり、授業でのICT活用の重要性はさらに増しています。特別分科会「GIGAスクール時代におけるNIEとICT」を拝聴させていただき、大変勉強になりました。放送大学・中川一史教授の、先進国の中で日本はICT利用が最下位で、ICTの能力を高めることは喫緊の課題とのお話と、横浜市立荏子田(えこだ)小学校・浦部文也教諭のタブレットを利用したNIEの取り組みを知り、あらためてICTに取り組まなければならないと感じました。さらに、ICTとアナログ双方の良さを有効に使う授業計画と十分な準備によって、生徒たちの学びが深まることを学ぶことができました。ありがとうございました。

    天野利佳・兵庫県立播磨特別支援学校教諭 北海道岩見沢高等養護学校の実践発表「特別支援学校におけるNIE」をお聴きし、共感することばかりでした。特に生徒たちが新聞に対し持っているイメージは、本校の生徒の話を聞いているようでした。取り組みもとても参考になりました。ありがとうございました。     

    福田浩三・兵庫県立伊川谷高校教諭 初めて参加した全国大会は、コロナの影響でオンラインでの視聴となった。開催地の空気感を肌で感じられなかった反面、興味を持ったものをじっくりオンデマンドで堪能できた。新聞記事を授業に活用することもさることながら、私は「新聞の持つ表現力」を生徒が学びとることに主眼を置いており、その意味で「子ども新聞展示会」「高校生号外」にたいへん興味を持った。各地の子ども向け・中高生向け新聞の紹介を通し、「自ら必要な情報を新聞から拾う」ことの重要性を再認識した。関係機関には、全国で「小学生から本物の新聞に触れて学ぶ教育実践」が活発になるような環境整備を望むところである。

    三好正文・兵庫県NIE推進協議会事務局長 全国大会への参加は今年で5年目になる。毎回、先生たちのアイデアを凝らした授業に感心させられ、見よう見まねで兵庫のNIE活動に取り入れてきた。札幌大会では「アイヌ文化学習とNIE」をテーマにした2つの実践発表が興味深かった。ねらいが「アイヌとの共生やアイヌの経済格差問題を考える」と明確で、オンラインながら居住まいを正して視聴した。公開授業「パラリンピック選手の生き方に学ぶ」は早速、小学校教員向けのNIE研修で紹介させてもらっている。
 北の大地でNIEについて語り合うのを楽しみにしてきたが、コロナ下ではそうもいかない。今後、事態が収束に向かっても、それぞれ長所のある現地開催とオンライン開催を併用する流れは強まるだろう。「来年は宮崎に行きたいな」と思いながら、オンラインの新たな展開にも思いをめぐらせている。