2020年4月アーカイブ

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西上三鶴・兵庫県教育長

 生徒の誰もが先生に

  平成から令和に時代も変わり、これからの日本は、国際化・情報化に伴い、多様な価値観をもつ人々と出会う社会となります。NIEの活動は、国内外の記事を通じて、世界を知るだけでなく、問題・興味を探す力、解決策・新たな展望を考える力、そして、自分の意見を伝え、他人の意見を聞くことを通して多様な考えをもつ人々と共生する力も育てています。

  昨年9月に行われた尼崎市立大庄北中学校の発表は、生徒誰もが先生であり生徒でした。生徒が生き生きと授業に向かう姿に感動しました。担当された先生の3年間の積み上げに敬意を表します。

    11月には県立津名高等学校の発表会に伺いました。地域の課題を基にNIE活動で学んだことを、生徒達はポスターセッションの中で発揮していました。

   昨年7月に行われた「NIEセミナー」にも参加しました。新聞をどう活用するかなど、活動の成果を左右する先生の授業力は、とても重要です。

   ICT技術が発達しても、多様な情報を限られた紙面で提供する新聞は最も身近な社会に触れるツールです。これからもNIE活動を応援していきます。

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長田 淳・神戸市教育長

 「世界の中の私」学ぶ

 2020年度から順次始まる学習指導要領には、学校で学んだことが「生きる力」となって、その先の人生につながってほしいという願いが示されており、そのために新聞を活用することも総則に明示されています。

 このような折、新聞各社のご理解とご協力を賜り、学校の授業等において、新聞記事の二次利用が行えていることは、すばらしいことだと思います。もちろん、新聞記事を印刷利用するには、著作権法に留意する必要があります。「学校の教育活動」という理由で著作権を軽んじてはいけません。子どもたちに遵法の精神を醸成することも大切で、著作権を守りつつ、NIE活動を推進しています。

 さて、19年度のNIE実践校に神戸市からは小学校2校、中学校1校、高等学校1校が指定を受け、活動しています。神戸市で過去最多です。実践校では、記者派遣活動、新聞6紙の無償配布などを通し、児童生徒の世の中を見る目に変化が表れました。自分は、他者との関係性の中で存在する。つまり、自分のありようは、世界と無関係ではないという相互承認の力が向上しており、NIE活動は、よりよい社会の担い手の育成につながっていくものだと感じています。

 ※「兵庫NIEニュース」第62号に掲載しています。

 日本新聞協会は「第11回いっしょに読もう!新聞コンクール」の作品を募集している。興味を持った新聞記事を家族や友人と読み、感想や意見を専用の応募用紙に書き、あわせて記事の切り抜きも送る。

 対象は小・中・高・高等専門学校生。記事は2019年9月9日~20年9月8日の新聞から選ぶ。個人賞と学校賞の各部門で校種別に審査、12月上旬に結果を発表する。

 応募要領・応募用紙は日本新聞協会NIEウェブサイト(http://nie.jp/)からダウンロードできる。兵庫県内の受け付けは、〒650-8571 神戸新聞社内、兵庫県NIE推進協議会「いっしょに読もう!新聞コンクール」係。9月9日必着。問い合わせは同協議会☎078・362・7054

社説から学ぶ、説得力のある文章とは?

~「意見」に着目して、社説を要約しよう~

1. はじめに

 聴覚に障害がある子どもは耳から入る情報が限られるため、言語力を高めるための支援が重要になる。近年は小論文やリポートなど、自分の意見を論理的に述べる力(論述力)がますます求められるようになり、より丁寧な指導が必要になってきた。

 論述を苦手とする生徒の文章は、主張の羅列に終始したり、あるいは主張が見えなかったりして、事実と意見がバランスよく構成できていないことが多い。そういう生徒に、社説の要約を勧めてきた。

 社説は、今、社会で生じている問題を解説し、意見を述べたものである。事実をもとに論述するという点で小論文と重なることが多い。視野を広げながら、論述力を高めるには、絶好の教材といえる。

 一方、社説は難しいというイメージをもっている生徒もいる。実践にあたっては、生徒の興味・関心が強い記事を用い、論理構成をつかみやすくするために「意見」の部分にマーキングさせるなど留意した。

2. ねらい

・事実と意見を区別し、要約することができる。

・論理の構成や展開をとらえながら読み取る。

3. 実 践

(1) 対象 高等部の希望者

(2) 時間 休憩時間や家庭学習

(3) 方法

社説のタイトル一覧から、読みたい社説を3つ選ぶ。ワークシート1

意見の部分に、蛍光ペンでマーキングする。(事実と意見を区別しながら読む)

意見に注目して段落に分ける。1つの段落を1行で要約する。(要旨をつかむ)

各段落の要約をもとに全体を150字程度で要約する。(俯瞰的にとらえる)

(4) 留意したこと

・生徒の興味・関心が高い記事を選ぶ。(アニメーション、オリンピックなど)

・事実と意見が区別しにくい文は、別の色でマーキングさせる。

事実と意見を区別するためのワークシート2

・できれば漢字に振り仮名をつける。

4.結 果

 (1) 事実と意見の区別について

  事実と意見を明確に区別できない場合がある。たとえば、「~という指摘もある」という文は、指摘された事実を提示しつつ意見を示唆している可能性があるが、今回は、事実として扱った。その結果、実施した生徒が抽出した意見は、概ね一致した。

 (2) 生徒の要約文

 1行要約では、段落の中心文を抜き出す程度で良いと考えていたが、生徒は短い文章にするために言葉に選び変えたり、語順を入れ替えたりと工夫していた。全文の要約(150字)では、1行要約を柱にしつつ、何度も本文に立ち戻り、必要と思われる言葉を追加していた。


    Aさんの事例〉

150字要約「京都アニメ放火/若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019,7.20)

・どんな理由であれ、絶対に許せない暴力行為だ。

・「地方発」モデルを築いてきた人々の夢を壊した犯行である。

・ガソリンの購入時の規制策を検討する必要がある。

・必ず素晴らしい作品づくりができるように支えたい。


段落の要約「京都アニメ放火/若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019,7.20)

若者らの未来が奪われた京都アニメ放火。夢を壊した犯行で、絶対に許せない暴力行為だ。ガソリンを悪用した犯罪は繰り返されてきた。凶器となる危険性を考えれば、購入時の規制策を検討する必要があるのではないか。平成以降、最悪の惨事の衝撃は世界にも広がった。素晴らしい作品作りができるよう、復活を支えていきたい。


 冗長さはあるが、1つの提案を挟み、生徒なりに意見をよく表現できたように思う。なお、Aさんが選んだ社説は、「アニメ会社放火 夢描く若者の未来絶たれた」(新潟日報,2019.7.20)、「『京アニ』惨事 奪われた才能を悼む」(中日新聞,2019.7.20)、そして、「京都アニメ放火 若者らの未来が奪われた」(神戸新聞,2019.7.20)の3本であった。見出しに含まれた「夢」「才能」「未来」という言葉にひかれたという。

 (3) 生徒たちの感想

 生徒たちの感想は肯定的だった。感想は概ね次の5点であった。


・新聞社によって表現方法だけでなく、重視している論点が違うことがわかった。

・社説は事実を述べたうえで意見を短く述べているとわかった。

・語彙力が向上すると思った。

・考え方や意見を述べる力が鍛えられると思った。

・要約するのにすごく時間がかかったが、とても良い経験になった。


 

5.成果と課題

 高校生の自律的な学習を促すには、「学びの面白さ」、「自分の力が向上した」、「自分の見方・考え方が広がった」、「人の役に立つ」などを実感することが重要だといわれる。今回の実践で、そういった感想が得られ、「社説に込められた力」を感じている。

 この実践前に生徒B君が書いた自己アピール文は「やる気と主張」が熱くつづられた文章だった。実践後、彼は自主的にアピール文を書き直してきた。文章は、具体的事実が加わっていて、説得力が格段に高まっていた。客観的な事実を入れる大切さを理解したようだ。

 社説には難しい表現(たとえば「憤りを禁じ得ない」など)がある。それが生徒のモチベーションを低下させないかと憂慮していたが、参加した生徒の多くは「語彙が増える」と肯定的に答えた。たいへんうれしいことだと思う。今回の実践を機に、自主的に生徒が毎日できる方法へとつなげたい。

6.おわりに

 私自身も社説の読み比べを続けている。

 過日、新型肺炎による「小・中学校の一斉休校」について、各紙が社説で取り上げ、多くが保護者や子どもへの影響を指摘した。一方で、各紙の特徴もうかがえた。

 秋田魁新報は「新型肺炎、臨時休校 感染拡大防止へ正念場」(2020.2.28)と感染防止を呼びかけ、北國新聞は「臨時休校の波紋 全国一律の必要性あるか」(2020.2.29)は一律実施への疑問を表明し、神戸新聞は「政府の肺炎対応 丸投げの前に責務果たせ」(2020.2.29)と政策の進め方への疑問を投げかけた。後日、政府が具体的に動き始めた様子をみていると、社説を参考にしたのかと思えるほどである。まさに新聞の読み比べは、社会や政治への関心を高め、視野を広げ、自らの考えを深めるための教材だと思う。

斎藤 治(神戸聴覚特別支援学校教諭)(3月31日)

兵庫NIEニュースを発行しました。第62号となる今回は2019年度の実践発表会や県立津名高校、加古川市立川西小学校の公開授業などを紹介しています。

下記リンクからPDFファイルをご覧いただけます。

NIEニュース(62号)・PDFファイルを開く